Cristian Vogel - Enter the Tub

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  • 大げさな物言いに聞こえてしまうのを承知で言うが、テクノのフィールドにおいてサウンド・デザインという点にかけてはCristian Vogelの右に出るものはいないとここで私は断言してしまおう。それがKyma(訳注:サウンド・デザインのための生成ソフトウェア)の賜物なのか、LSDの効果なのか、はたまた単純に彼の知性と耳のおかげなのかはわからない—おそらくそのすべての複合的効果だろう—が、現在バルセロナ在住のCristian Vogelは電子に司られたサウンドの世界における秘密の鍵を握っているのは確かなことだと言っていいと思う。Shitkatapultから届けられた彼の新作(間もなくリリース予定のアルバム『The Inertials』からのカット2曲プラス未発表2曲)を聴いての第一印象はまさに以上に述べたものと寸分も違わない。 トラックの構造・構成という点で言えば、その音色ほどは革新的ではない。"Deconstructions"はBasic Channelの伝統の延長線上にあるトラックだし、"Enter the Tub"はその表面だけをなぞればShedやMonolakeをよりダビーに仕立てただけのトラックに聴こえる。"Voidster"も同様にダブ・テクノ的であるし、"Lucky Connor"での調子外れなアルペジオは少しだけOni Ayhunを彷彿とさせる。でも、そうした構造的な部分でこのEPを判断したつもりになるのは大きな誤りだ。"Deconstructions"で聴くことができるモノトーンきわまりないコードはその他大勢のダブ・テクノのリリース群との近似性を感じさせつつも、Vogel独特のサウンドの質感、ゆったりとした空間の使い方などは他のどのアーティストよりも遥か先の次元に進んでいると言うべきだろう。これまで以上にダイナミックで有機的なそのサウンドは、どこに始まりがあってどこで終わるのかちょっとやそっとでは判別できないほどだ。かろうじてリズム的なサウンドの要素がときにハードでときに煙るようなグルーヴをつなぎ止めており、その隙間に滑らかな連続性がひたすら漂っていくのだ。
RA