Maayan Nidam - New Moon

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  • Maayan Nidamにとって、ベルリンという街は完璧な活動基盤のように見えた。現に彼女が本人名義やMiss Fitz名義のもとPerlonやFreak n'Chicといったレーベル群からリリースしたトラックはベルリン的なサウンドを如実に反映していた。つまりそれはストリップダウンされた4/4リズムやオフビートなメロディ感覚であり、"Don't Know Why"といったトラックで示されていたようにベルリンらしいポスト・インダストリアル的なアンビエンスを存分に含んだものであった。 2009年にリリースされた彼女のデビュー・アルバム『Nightlong』において、意外にも彼女はキューバへとその音楽的興味の対象を向けた。サウンドと言う点よりもむしろ構造的な面でミニマルに徹したそのアルバムで、Nidamはキューバのミュージシャンたちの演奏をサンプリングし、反復的な4/4グルーヴに埋め込もうとした。確かに興味深いアイデアではあったものの、緩慢なキューバ的グルーヴとNidam独自のミニマルで繊細なサウンド嗜好は決してうまく融合しているとは言えない面もあった。それでも、オーガニックなラテンサウンドを人工的なテクノのフォーマットに落とし込むという試みは部分的には成功していたし、Ernesto FerrayaなどのCadenzaアーティストたちが試みていたアプローチとの相似性も感じられた。 そうした点を踏まえると、Nidamによるさらに多様性に満ち充実した内容のセカンド・アルバムがLucianoのレーベルからリリースされるという事実は至極納得のいくものだ。'90年代中期のG-Stone作品を彷彿とさせるアルバム1曲目の"On My Street"ではぶっきらぼうなギターとゆったりとしたドラム、それを取り巻くジャジーなヴァイブがまさにかつてのKruder and Dorfmeister作品さえ想起させられる。彼女のジャジーな嗜好は"Sunday Sunday"といったトラックでも感じられ、ミュートされたベースの上でキーが跳ね、やがて壮大なブラス・サンプルが登場する。 重いビートを配したトラックよりも、こうした軽めのグルーヴのトラックのほうがどうやらNidamらしい持ち味がよりわかりやすくなるようだ。"The Great Suspenders"といったトラックではまさに屈強なボクサーたちに囲まれているかのようなリズムが足下で弾み、風変わりなアシッド的音色がその上でピンと張りつめている。"Send a Pigeon" といったトラックでは統率された攻撃性というべきアプローチを聴くことができ、ジャッキンなハウスグルーヴに軋むようなシンセ・ノイズがせり上がりながらも、依然としてトラック自体のワイルドなグルーヴは黙々と突き進んでいく。"Harmonious Funk"の不安定なグルーヴのなかに突然放り込まれるベースラインはまさしく強烈で、その絶妙な展開には思わず舌を巻くはずだ。Nidamの持ち味はそのシンプルで筋肉質なビーツというよりも、そのしなやかな敏捷さを持った直感性と言うべきで、この2つの要素は彼女の人生や音楽の両面において大きなインスピレーションの源となっているはずだ。