DJ Sprinkles & Mark Fell - Complete Spiral EP

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  • DJ Sprinkles (Terre Thaemlitz)とSNDのMark Fellのコラボレーションは、至極納得のいくものだ。両名共に非常に論理的で精密なコンセプトのもとに作品を創り上げるアーティストであるし、その論理やコンセプトの強固さは凡百の「クラブ・ミュージック」プロデューサーたちは足下にも及ばないものだ。さらに言えば、両名に共通するのはその既定されたサウンドから積極的に逸脱しようとする意図を持っているという点だろう。それはSNDがファンクそのものを圧縮して滅菌処理したことや、Sprinklesが"Midtown 120 Blues"で実践したように旧来のハウスミュージックにおけるハイハットの概念すら覆すようなアプローチを思い出しても明らかだ。彼らはミニマリストというよりはむしろフェティシストであり、ここで彼らはお互いのサウンドを偏執的なまでに磨きあげ、そのサウンドはまるで人工ダイヤモンドのような輝きすら放っている。 ここで彼らは2つのコードのみを使ったパンピンなハウス然としたトラックを仕立て上げ、ややもすると平凡なサウンドと勘違いしてしまいそうなほどだ。しかし、その解りやすさが実際は巧妙なトラップだということがわかってくる。"Say It Slowly (N.U.M. Mix)"で使われている演説スピーチのサンプルは、英国社会主義労働党の党首であったArthur Scargillの反共産主義スピーチと、鉱夫労働組合が起こした1984〜85年の有名なストライキの際の労働組合長のスピーチが用いられている。とはいえ、そのスピーチの内容はすんなりと耳に入ってくるわけではない。Sprinklesが2009年の『Midtown 120 Blues』でやっていたのと同様、Scargillのスピーチは非常に遅いピッチに加工され、自然とリスナーの注意を引くように仕掛けられている。まさに誘惑のためのポリティクス、といったところか。いっぽう"Hee-Haw Remix"では、Scargillのスピーチのかわりにある種コズミックでもあり不穏でもある要素で置き換えられ、ディーバは恐怖をもよおす道化のようでもある。しかし、それでもクリスピーで小気味よいオルガンのグルーヴは何事もなかったかのように突き進んでいく。 Bサイドをまるまる使った"Complete Spiral"では、12分半にもわたって端正なドラムマシーンと液体的なシンセで満たされ、ほとんどサブリミナル的に使われたヴォーカルがその下敷きとなっている。'90年代後半から'00年代前半ごろのきらびやかなディープハウスを思い起こさせるクラシックな造りのトラックであり、個人的にはLuomoの『Vocalcity』を思い起こしたりするのだが、この作品におけるクリスピーさと無愛想さすら感じさせるムードはやはりLuomoのそれとは別個のものだ。何を参照にしようと、このレコードはハウスの機能的な面における官能性を極限まで引き出した、実に幻惑的な作品であることに間違いはない。