Recondite - On Acid

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  • ダンスミュージックの歴史上非常に重要な要素でありながら、現代における「アシッド」というサウンドの適用はあまりにもギミック的に用いられすぎている。303独特のサウンドにおけるキャラクターが一般的に耳慣れたものになりすぎている、とも言えよう。このローランド社が生み出した愛すべき名機におけるオルタナティブな可能性を見出そうとしているレーベルが、つい先頃RA Label of the Monthにも選ばれたAcid Testであり、これまでにもDonato Dozzy、Tin ManそしてAchterbahn D'Amourといった眩いばかりの輝きを持った秀逸なリリース群を展開している。意外と言うべきだろうか、このレーベルにとって初となるアルバム・リリースはReconditeの手によって届けられた。Reconditeといえば、そのジェントルな作風のディープハウスで知られるドイツ人プロデューサーであり、ほとんどアシッドハウスには縁がないと思われていたアーティストだ。しかし、この『On Acid』で彼が見せつけている303の実験は肩肘張らない非常に自然なものであるというだけでなく、このあまりに多用されてきた名機における真にイノベイティブな領域すら切り拓いてもいるのだ。 このアルバムには、既存のいわゆるクリシェ化されたアシッド・サウンドはことごとく回避されている。あの303独特のぐにょぐにょとしたサウンドは入っていないのだ。そのかわり、Reconditeはいわゆるアシッド的サウンドを腐食させたうえで、そのニュアンスや幻惑的なポテンシャルを白日のもとに曝け出してみせている。ここでは303はまるでストリングスのような扱われ方をされており、Reconditeはさまざまな密度でレゾナンス・フリーケンシーを自在に操りながらほとんど無調ともいえるキーで戦慄のクライマックスへと導いていく。アルバムのオープニング・トラックである"Petrichor"では、木のかたまりのようなパーカッションと慎重なシンセ・ワークが組み合わされて一聴しただけでは「アシッドらしい」部分はまったく気付かない。しかし、ひとたびその繊細なレゾナンスがうねりを上げ始めると、小さいながらも鮮烈な光の矢が荒涼としたランドスケープに放たれるのだ。 この底知れぬ深淵と沈黙こそ、このアルバムを真に魅力的なものたらしめているものであり、それはこのアルバムの最も穏やかな部分でさえもしっかりと感じ取ることができるのだ。とりわけ、アルバムの中核を成す2つの長尺トラックではその感覚が壮大なメランコリーとして昇華されている。"Tie In"はほとんどつぶやきのようなトラックではあるが、暗闇を手探りで進むようなトーンの中でその303ラインが美しい光りを放ち、トラックに対して生命力を与えているようにも思えてくる。"Harbinger"もまた非常に抑制されたトーンを持ったトラックだが、その内側で蠢くアシッドの痕跡はまるで金切り声のようなサウンドとなって強烈なブレイクを創り出し、オーバードライブがかかったおなじみのアシッド・サウンドはまるで純然たる哀しみのようになって耳に届くのだ。堅苦しさや気難しさもそこにはなく、Reconditeはあくまでもダンス・オリエンティッドなトラックとしてこれらのトラックを仕上げている。とりわけ、"Sultry"での心地よいコード進行や全身全霊を懸けたラスト・トラック"Jaded"(まるでBurialの"Raver"を思い起こさせる)は非常に印象的だ。 このアルバムはTin ManとScubaがそれぞれ手掛けたリミックスで締めくくられており、両アーティストともにReconditeのミニマリスト然とした作風に対し正攻法とも言えるダンスミュージック的アプローチを試みている。両名共にその実力を遺憾なく発揮したリミックスを披露しているのだが、Reconditeのオリジナル・トラックだけでも十分にアルバムとして成立しているところにこうしたリミックスが必要なのかどうかは正直なところ疑問に感じる。ともあれ、Reconditeのこれまでのキャリアからは奇妙に遊離した作品であると同時に、20年以上にもわたるアシッドハウスの歴史上においても最も個性的な作品であることは間違いないだろう。