Levon Vincent - fabric 63

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  • Levon Vincentの主張とは相反してしまうが、彼が創り出すニューヨーク流のモダン・ハウスは必ずしも彼の言うところのニューヨーク独自の神秘性をはらんでいるとは言えないかもしれない。たとえばJus-Edは冬のあいだはニューヨークを離れ、コネチカットへ戻りスタジオ・ワークに集中しつつ世界各地へツアーに出かける。また、Anthony ParasoleやDJ Quといった人々はその社会健康保険制度に縛られ、9-5時の仕事から離れられずにいる。皮肉なことに、彼らのほとんどは厳密にはニューヨークに居住してはいない。マンハッタンに住むほど稼いでいる者はとうぜん皆無だ。 彼らクルーを本質的に繋げているのは、各自のハードワークと既存の音楽業界システムに対する反骨精神だ。このある種オールドスクール的な価値観の根本は、互いのスタイルを尊重し合うという部分にこそある。ここに届けられたLevon Vincentにとって初となるオフィシャルmix CD、『fabric 63』には、まさしくLevonをはじめとしたニューヨークのクルーそれぞれの固有の個性が反映されたサウンドが詰め込まれている。たとえばこれが待望の初オリジナル作品となるAnthony Parasoleの"Tyson"でさえ、DJ QuやBlack Jazz Consortium、Vincentの創るトラックとは明らかに違う個性を放っているのだ。彼らは、他者の作品と自己の作品との相違性をじっくりと集中して見据えながら作品を作り上げているのだろう。 このミックスにおけるスターは、他の誰あろうVincent本人だ。15曲中7曲に彼の名前がクレジットされ(Vincentは「ちょうど2012年のリリーススケジュールがまとまったとこだったので、ちょうどその機会を利用させてもらったまでさ」と今年はじめに語っていた)、以前このミックスシリーズでVillalobosOmar-Sがそうしていたように自身のトラックをふんだんに注ぎ込んだ内容となっているのだが、そこに文句をつけるものはよもやいるまい。というのも、Vincentのサウンドにおける突出した個性のおかげで、彼のニュー・マテリアルは常に垂涎の的だからだ。彼のことを知らないリスナーにとっても、このミックスは彼独特のストンピングで大きなリフを特徴としたテクノに触れる絶好の内容であろうし、ローランド製のSpace Echoも彼の作品における独特のムードを醸し出すのに一役買っている。このSpace Echoによるエフェクトは、とくに近年の彼の作品においてはもはやおなじみの機材のひとつであり、彼のサウンドの個性ともなっている。彼の柔らかなディープハウスのセレクションは、オルタナティブなダブ・テクノの系譜をも内包していると言えよう。 我々が初めてその名を聞く、Joey Andersonという存在もこの「fabric 63」のなかで際立っている。このミックスに収録されているトラックはそのどれもが強力だが、なかでもAndersonが手掛けた"Earth Calls"はVincentが彼へのリスペクトを包み隠さず表明しているという点で、とりわけ印象的に響いている。それを踏まえた上でJoey Andersonが手掛けたもうひとつのトラック"Hydrine"を聴くと、Vincentの言うところの「ニューヨーク独自の神秘性」というものが朧げながらも見えてくるような気がする。"Earth Calls"は不穏さそのものといった印象だが、"Hydrine"は戦慄をもよおすような性急さが脈動している。 この「fabric 63」は、少し聴いて流しただけではなかなかその全体像を掴ませないようなところがある。このミックスは、いわゆる「起承転結」的なわかりやすいストーリー性とはまったく関係がない。ミックス全体を通して、一時停止とスタート、リセットが混在しているのだ。VincentはDJ Quによる狂気じみたトラック"Times Like This"のつぎに、8分間にもわたってじりじりとビルドアップする"Fear"をストレートにミックスする。Parasoleの"Tyson"では意図的に小休止を挟み込み、そこからダウナーなディープハウス"The End"をミックスする。すべての選曲、すべてのミックスが驚くほど最適のバランスで成り立っており、もはやこれ以上のやり方はないと思わせるほどだが、それこそLevon VincentというDJが持つ固有のスタイルなのだろう。ともかく、この作品にVincentが注ぎ込んだハードワークに対しては疑いの余地もない。この「fabric 63」は純然たるアーティストによるサウンドであり、Vincentはもとよりfabricの過去作品中でも屈指の輝きを放っている。