Gang Colours - The Keychain Collection

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  • Gang Coloursのファースト・シングルであった「In Your Gut Like A Knife」はRAのレビューにおいて「Four TetとFloating Pointsが出会ったかのようなサウンド」と評したが、このデビューアルバム『The Keychain Collection』を聴いた今では、その比較対象を改めなければならないという思いにかられている。Gilles Peterson率いるBrownswoodと2011年の1月に契約を交わしたWill Ozanneだが、このサウザンプトン出身のプロデューサーが生み出す滑らかなエレクトロニック・ミュージックとBrownswoodという確立されたブランドの組み合わせは、Nico Jaarの質感豊かな作品群が多くのリスナーに受け入れられたのと同様に、多方面からの注目を浴びるはずだと思われていた。しかしながら、そのプロダクションは依然として感情豊かなものであるにもかかわらず、Gang Coloursにはどこか深みに欠けているのも事実だ。結論から言えば、このアルバムでのOzanneのストーリーテリング能力はどことなく平面的である事実は否めない。 他のどんな影響源よりも明らかなのはUKガラージの存在で、とりわけOzanne自身も認めているようにThe Streetsからの影響は特に色濃く窺える。この『The Keychain Collection』を最初に一聴しただけではMike Skinnerという例えはなかなか浮かび上がってこないかもしれないが、Gang ColoursのUKガラージ解釈はThe Streetsにおけるそれとかなり多くの共通点を見つけることができる。 OzanneによるUKガラージ解釈は必ずしもアップビートなものではないし、ダンサブルなものではないが、よりストーンした感覚が強く、思慮に富んでいる。意地の悪い言い方をすれば、ガラージに導入されたハウス的クリシェに対して鈍感なリスナーのためのヘッドフォン・ミュージックといったところか。スタブや性急なパーカッションも無く、過度にセンチメンタルなヴォーカルフックも無い。そして、どのトラックも4分半にも満たない長さで揃えられている。スローモーションで飛び飛びになったようなビーツは『The Keychain Collection』の音楽的な要素と良好な対比を見せ、最初にこのアルバムを聴いたなら親しみやすい印象を持つはずだ。非常にのろのろとしたペースながら、少なくともこのアルバムでOzanneが何らかのストーリー性を伝えようとしていることは理解できるだろう。 もちろん、そこには良い面と悪い面の両方が存在する。最初に聴いたときに受ける心地よさはたしかに魅力的かもしれない。しかし、しばらく聴き進めていくとこのアルバムには活き活きとした運動性に欠けていることが徐々に見えてくるはずだ。その点がこのアルバムを聴き返すたびに大きな欠陥として浮かび上がってくる。夢見心地な印象を持ったアルバムは、ベッドに横たわって少し聴いただけで深い眠りに誘ってくれるので、それはそれで悪くはないのかもしれないが。"To Repel Ghosts"や"Fancy Restaurant"といったトラックは良くも悪くも象徴的だろう。パルス状のベースやクリスピーなパーカッションはとりたてて挑戦的な印象も無く、たいしたドラマも無く聴き手に集中力を要求しない、あっさりと聴き流せてしまうような種類の音楽といった印象だ。ある意味では、このアルバムはちょっとした予告編のようなものではないかとも受け取れる。注意深く聴き込もうとすればするほど期待を裏切られる、そんな印象なのだ。まあ、このアルバムを聴くことが完全なる時間の浪費だとまでは断定しないにせよ、決定的な濃密さやメッセージ性に欠けていることは残念でならない。音楽というものは、かならずしも「良いもの」である必要はない。少なくとも、音楽は素晴らしいものでなければならないのだ。
RA