Stefan Goldmann - Adem EP

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  • Stefan Goldmannのエレクトロニック・ミュージック界におけるこれまでのキャリア形成は、まったくもって平均的ではない。彼の手掛ける作品や彼のレーベルMacroからリリースされる作品は既存のジャンルの枠組みからいつだって軽々と遊離してみせる。Macroから届けられた彼の最新作、「Adem EP」もまた当然例外ではない。このレコードは彼がこれまでに手掛けた作品に比較してとりわけ奇抜であったりヘヴィーであるというわけではないが、既存のDJセットにある種特別な音楽的要素を与えるような、かゆいところに手が届くリリースと言えるかもしれない。 "Adem"ではブルガリアのフォーク/ポップ/ダンスの要素を内包した民俗音楽でもあるチャルガのメロディを引用していて、その独特の近接した音符の構成によってGoldmannはじつに甘美な不協和音をトラックにもたらしている(メロディのみを抜き出した"Chalgapella"もBサイドに収録されている)。しかしその繊細ながらも強靭な、正確に磨き上げられたドラムは紛れもないGoldmannのトレードマークでもある。過去数年のテックハウスを聴いてきたリスナーならばこうしたハウスグルーヴに東ヨーロッパのメロディを組み合わせたものは飽きるほど耳にしてきたはずだが、このトラックはそうした単純なカット&ペースト的なトラック群とは一線を画している。トラックを構成するそれぞれの要素は有機的に反応し合い、そのグルーヴの強度を増幅しているのだ。"Rigid Chain (Dub Mix)"はベースといくつかのドラムサンプル、静かなパッド、くっきりとしたディレイを組み合わせただけのシンプルきわまりないトラックだ。"Shallow Grave"はポスト・インダストリアル的な空間に捩じ込まれたような趣で、"Adem"で幕を開けたEPのインパクトを考えるといささか奇妙な着地という気もしないでもない。しかし、やはりと言うべきだろうか、Stefan Goldmannという人は徹底して予定調和と嫌う人なのだと実感させられる。
RA