Marc Houle - Undercover

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  • Madga、Troy PierceそしてMarc Houleの3人が運営するレーベルItem & Thingsはいまだその全貌を明らかにはしていないが、2012年の彼らからは多くのものが期待できそうだ。レーベルとして初となるアルバム・リリースを飾るこのMarc Houle『Undercover』はまさにその嚆矢となるであろう作品で、オールドスクールなエレクトロを中心としながらも、ほとんどポップとも言えそうなフックとダイレクトな感覚に満ちた仕上がりとなっている。 "Bay of Figs"のような求心力のある作品から、"Techno Vocals"のような分離論者的な作品まで手掛けるこのオンタリオ出身のプロデューサーのこれまでのキャリアは決して平坦な印象ではなかったと言えよう。2010年にリリースされたアルバム『Drift』ではエコーがかったギター・リフと洞窟のような空間でベースラインが跳ね回るような印象で意図的に統一感が図られていたように感じられたが、それとは対照的に今回の『Undercover』ではトーンがより明瞭になり、時にはやや浮ついた印象さえ受ける(言い換えるならば、リンカーンをゾンビ化して描いたカヴァー・アートに混乱してはいけないということだ。前作『Drift』でのゴス趣味はいったん忘れよう)。 このアルバムの1曲目でありファーストシングルとなった"Undercover"からは決定的かつ明らかなユーモアが伝わってきており、茶目っ気のあるヴォーカルが時折唐突に音色変化するあたりはとりわけ印象的だ。このケレン味も屈託もない明るさは"Very Bad"や"Bink"といったトラックでも同様だ。とはいえ、この2曲に関してはもっとふさわしいヴォーカルサンプルがあればさらに良かったかもしれない(アルバム最後の"Under the Neath"ではそれがうまくはまっている)。プロダクション的な面に目を向けると、"Juno 6660"や"Mooder"といったトラックでは初期のシカゴ産アシッド・ハウスへの絶妙なオマージュを聴くことができるし、"Am Am Am"ではかつての彼の出世作"Bay of Figs"を思い起こさせる切れ味鋭いムードがしっかりと味わえる。 Houleはこのアルバムのリリースに先立って、XLR8R podcastシリーズのためのミックスでこのアルバムの大部分をよりオーガニックで見事な調和のもとに披露しており、彼のトラックのフロア・フレンドリーさは既に証明済みだ。興味深いことに、ここ最近Houleはthe Raid Over Moscow名義のもとTigaのTurbo Recordingsから80年代調のマイナーなシンセ・ポップも発表している。彼独自の二面性を持ったパーソナリティはこの『Undercover』からも容易に聞き取ることができる。時には「もっとじっくりと音色を練り上げたほうがいいんじゃないか?」と思うこともあるにせよ、明らかに彼はそうした抑制されたシリアスさからもっと先の次元に進もうとしているのだ。
RA