Aybee - Astral Metronome EP

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  • ひとくちに「ディープ」という形容詞を用いる際、そこには心地よい性質のものと、フリーキーな性質のものの2つがある。とりわけ最近我々が慣れ親しんでいるのは「心地よいディープさ」と類されるものだ。こうしたタイプのトラックでは、いくつかのコードに彩られ、肉感的なシャッフルやヴォーカル・サンプルが破綻無くトラックの輪郭を描き出していく。しかしそうしたところから離れた部分に、奇妙に捩じれたディープさというべき感覚が存在する。到る場所に圧力が噴き出し、その地面を這っていくグルーヴはまるで宇宙の外側からやってきた未知の生物のようでもある。Deepblakを主宰するAybee(Prof. Delacroix、o1o、Orion 70などの名義で知られるオークランドのArmon Bazile)が得意としているのはまさにそうした「奇妙でフリーキーなディープさ」であり、この「Astral Metronome EP」においてもその持ち味が随所で横溢している(まあ、そのEPタイトルの真意は深追いしなくてもいいだろう。Bazileのようなアフロ・フューチャリストが究極のディープさと宇宙空間を同一線上に結びつけて考えるのは非常に理にかなっているともいえる)。 "No Fiction"ではパンチの効いたドラムマシーンのリズムに鋭いクラップが一糸乱れぬまま載るのだが、トラックを構成するそのほかのあらゆる点は究極的にはアンビエント・トラックと言うべきで、おぼろげなコードが渦を巻くその隙間からはミュートされたリード・シンセが気泡のように浮かび上がる。そのミニマルなトラック構造には一切の物語性が排除されているのだが、そもそも物語性などというものはこのトラックには必要ないのだろう。ずっしりとしたテープ・コンプレッションがあらゆるサウンドを押し潰し、抽象的な輪郭に変えていくその現象があるだけで十分なのだ。"Ether"はよりストレートな性質を持ったトラックで、そのダビーなコードと線の細いドラム・パターンはまるで自動操縦のようにグルーヴをすり抜けていく。決して派手なトラックではないが、適切な環境でプレイされればリスナーを幻惑に誘うには十分なポテンシャルを秘めているトラックだと言えるだろう。いっぽう、"Kommands"はAybee独特の潜行するようなディープさをスローモーションなUKファンキー的シークエンスに落とし込んだかのような趣があるトラックでこれまた興味深い。激しくシンコペートするタムはモールス信号のようなベースラインとぶつかり合っているが、やがて漆黒のドローンがトラック全体を侵食し呑み込んでしまい、最後にはその破片の山が積み上げられるのみだ。