Infiniti - The Remixes: Part 1

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  • 250枚目というまさしく記念すべきリリースにあたり、ベルリンの老舗テクノ・レーベルTresorはテクノの過去と未来を結びつけるという試みを行っている。90年代中期から後期にかけて、TresorはJuan AtkinsによるInfiniti名義の2つのアルバム『The Infiniti Collection』『Skynet』をリリースしたが、今回Tresorはその2枚のアルバムに収録されていたトラック群をFunctionやRedshapeといったリミキサーの手に委ねたのだ。 カラーヴァイナルで計3枚リリースされるこのシリーズの第1弾にはThe OrbのThomas FehlmannとTresorでのレーベルメイトでもあるTV Victorが登場。詳しくない人にとってはもしかするとオリジナルとリミックスの違いを把握することは難しいかもしれない。それはAtkinsの作品やヴィジョンに共鳴できるかどうかの関門のような存在に起因しているのかもしれないし、リミックスという行為におけるオリジナルへのリスペクトという要素に起因しているかもしれないのだが、結局それらはリスナーの判断に委ねられる。少なくとも、オリジナルが持つ液体的な質感の素晴らしさについては議論を挟む余地はないだろう。"Walking on Water"と"Thought Process"、この2つのトラックはどちらも水平線を漂うようなシンセを繊細に扱い、そこにしずくのように落ちる水のしずくのような音色と金属的な質感がみごとに溶け合っている。 そのリミックスに関して言えば、"Walking on Water"をリミックスしたFehlmannはオリジナルのシンセを活かしつつも雨粒を落とし込むような音色という新たな要素を付加し、Infinitiによるオリジナルの持つピュアさと液体性をさらに引き出している。"Rain on Water"と題されたFehlmannによるヴァージョンはどこか波立ったようなムードもあり、薄いパッドの下を舐めるようなビーツがブレイクのたびに浮かび上がってくる。同様に、TV Victorによるエディットはオリジナルを過度に改変するようなところはなく、"Thought Process"のさざ波のようなムードを少しだけスケールアップし、あたかも静かな池にちょっとだけ大きな石を投げ込んでみたような佇まいだ。必ずしも即効性のあるようなキャッチーさを持つレコードではないが、このレコードが持つ穏やかで浮世離れした世界観はじわじわとリスナーの内部に浸透していくはずだ。
RA