Various Artists - Tectonic Plates Volume 3

  • Share
  • 2009年にリリースされた『Tectonic Plates Volume 2』ではMartynの"Yet"に代表されるように、この年のダブステップ/テクノのクロスオーヴァーを象徴する1枚となった。3年の時を経てリリースされるこの3作目のコンピレーションではダブステップの伝統主義からは最も離れた場所に位置するであろうロンドンのデュオ、Kryptic Mindsのトラックからまず幕を開ける。中盤に繊細な揺らぎを生じる、じりじりと燃え上がるような展開を見せるこのトラックはまさしく特筆すべきトラックであり、そのオシレーターの揺らぎは直感的というよりもはや官能的ですらある。 紋切り型のダブステップを巧妙に回避しつづけてきたこのレーベルにあって、The Talismanが手掛けたようなトラックはある意味驚きではあるものの、そこにはやはりPinchならではのユニークなベース・ミュージック観が如実に反映されていると言えよう。実際、この『Tectonic Plates Volume 3』には紛れもないダブステップが満載だ。Pinch自身の"Blow out the Candle"やPinchと同郷のブリストル出身プロデューサーGinzの"Chrome"に代表されるように、いかにもTechtonicらしさに溢れたトラックが並ぶ一方、Kevin McPheeのように極めてストレンジな140BPMサウンドも並列に収録されている。McPheeが手掛けた"Outs"はこのコンピレーション中屈指のハイライトであり、繊細かつ荒れたブレイクビーツと彼が最近傾倒しているピアノ・サウンドを組み合わせたうえで往年のダブステップらしいコードを組み合わせたこのトラックは、ダークな色調でありつつも同時に多幸感も同居している。Roskaもまた期待以上の存在感を示しており、各小節の終わりで鳴らされるパーカッションはスリリングさを演出すると同時にUKファンキーのクリシェを捩じ曲げており、このコンピでも屈指のヘヴィーなサブ・ベースの乱射を見せつけている。 Goth-Tradの近作でもわかるように、ダブステップのフォーマット上に残された実験の余地はまだまだたくさんある。"Mach"を引っさげてこのコンピレーションに参加したGoth-Tradはすべてのエレメントが振動しているかのようなウルトラ・ダビーなトラックを披露。これがTechtonicデビューとなるMonkyはジャングリズムを溶かし込んだ見事なダブステップ・バンガーを聴かせてくれている。 しかしPinchがFabricliveでまだ見せていない一面があったとすれば、それは彼が既存のジャンルから逸脱することを恐れていないという事実だろう。ダブステップをみじん切りにしたKryptic Mindに続き、ファンクをほとんど骨組みまで剥き出しにしたAddison Grooveの"Phantom"を聴いても分かるが、特に後者のトラックは既存のどのジャンルにもあてはまらない、きわめて個性的なトラックだ。うなるようなLFOを裏返しにしたかのようなOm Unitの"Preshah"での暴力的なカットアップとフィルターは典型的なダブステップの中域を未知のレンジに引き上げ、Illum Sphereによる不均衡なハウス・トラックは切り刻まれたストリングスのサンプルと人間のものとは思えないヴォーカルによってそのメランコリックさを壮大さへと大胆に置き換えてみせている。 アルバムの終盤には、それぞれ豊かな個性を放つ3人の大物が控えている。2562による"Rogue State"は10分をかけてじりじりと燃え広がるようなグルーヴのブロークン・テクノで、ひたすらミニマルにキープし続ける。そのテクノ的な軽やかさは前作でも聴かれた種類のものであり、3年前のことを思うとやや奇妙な気分にもさせられる。この『Tectonic Plates Volume 3』はダブステップの未来、といった大げさなお題目に沿った作品ではないし、かといって純粋主義者的な視点によって作られたものでもない。彼らがこのコンピレーションを通して伝えようとしているのは、現在進行形のベース・ミュージック・シーンにおいて何が起こっているのかという事実をただリアルに表現することなのだろう。それがエキサイティングなものであれ、エクスペリメンタルなものであれ、既に聴いたことがあるようなものであれ、単につまらないものであれ(Clue Kidには申し訳ないが)、それらはすべて現在のベース・ミュージックのありのままの姿なのだ。このコンピレーションで特筆すべき点は、作品全体として立ち上ってくるある種独特の心地よさだ。少なくとも、この『Tectonic Plates Volume 3』は巷にあふれる他のレーベルのどのコンピレーションをおいてもまず正当に聴かれるべき作品である。