Steve Moore - Panther Moderns EP

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  • Steve MooreはこれまでにもGianni Rossi名義でのイタロ・ディスコ・サウンドトラック、Mindless BoogieからリリースされたLovelock名義でのエディット作品、Zombiのメンバーとしての壮大なシンセ作品、はたまたMiracleのメンバーとしてのイタロ・ディスコ作品など数々の作品を残してきている。さらに、彼はロック・バンドのメンバーとしても活動している。Discogsを参考にしてみると、Mooreが参加したアルバムは過去24作品にものぼり、近日中にはLovelockとしてのソロアルバムも間もなくリリースされる予定だ。多作でありながら多様な作品を手掛け、ミステリアスな存在感を保ち続ける彼は、言わばLegoweltに対するアメリカからの返答である。本名であるSteve Moore名義で手掛ける作品は、どうやら当代的なダンスミュージックに対しより焦点を絞った方向性となっているようだ。しかしながら、彼のトレードマークと言えるアナログ・シンセはここでもやはり強い存在感を放っている。しかもそれは303や808、909といった定番のサウンドではなく、初期のヴィンテージ・サウンドがシークエンスされずにむしろ演奏されているのだ。 タイトル曲となる"Panther Moderns"の冒頭はまさにそうしたシンセの音色で溢れている。ディストピア的でブレードランナー的世界観がそのシンセを呑み込んでいく。そのムードが確立されるや否や、突如としてシンセが後ろに引っ込んで、のっそりとしたリズムが空間を支配する。キックとミュートされたクラップ、一定の揺らぎで鳴らされるシンセはどこかConforceの作風にも近い印象があり、シンプルでありながら見事に造り込まれている。小細工を仕掛けるのを嫌うMooreらしく、この"Panther Moderns"でのクライマックスは2つのメロディが唐突に統合される瞬間に訪れ、そのまま一糸乱れぬままフィニッシュまで到る。 比較的明るめのサウンドに彩られた"Beyond Tyken's Rift"にはしかし、一抹の無常観さえ感じさせる部分も孕んでいる。Star Trekにちなんだこのトラック名は深く広大な宇宙空間に対し身を挺して対峙するクルーたちへのサウンドトラックとして捧げられている。そのムードはやはり非常に簡潔なテクニックで引き出されており、低く粘着質なロー・エンドで緊張感を作り出し、その上空でトランス色の強いArpシンセが弧を描いていく。しかしながら、このトラックで特筆すべき点はその全体における見事な調和である。上昇するコズミックなパッドに導かれ、このトラックの描く空間は非常にナチュラルなものとなり聴く者をブラックホールのように吸い込んでいく。"Ancient Shorelines"はさらにドラマチックに仕立てられており、8分の間じゅうずっと2つのArpシンセの音色が狂ったように競争しているかのようだ。これ自体はさして珍しいものではないが、そこにMoore自身が加えるひとひねり、つまりイレギュラーなキックとさらにコズミックさを強調するパッドによってトラック全体の印象をひときわ強めているのだ。
RA