Monolake - Ghosts

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  • 約2年程前、Robert HenkeはMonolake名義としての7作目となるアルバム『Silence』をリリースしたが、最近明かされたところによると、『Silence』は三部作として構成されるアルバム連作の1枚目としての位置づけであることがわかった。『Silence』での断片的とも言えるそのサウンドはアルバム固有の瑞々しくもデリケートなムードにおいて「山にいると心身共に軽くなり、幸福かつ自己の存在の小ささを認識させる・・・そしてそこには神々が我らと共にいた」というテーマ性と併せて、ある種の映画(映像)的な要素を付加していた。2012年、三部作の2作目としてリリースされたこの『Ghosts』ではしかし、そのムードは一変している。蒸し暑いジャングルを表現したという本アルバムのコンセプト・ノートには以下のように記されている。「この小さな蠅たちの不快さを何と表現すればいいものか・・・眠ることは不可能に等しく、あまりにも暑く、無風である・・・そして神々はそんな我々を嘲り笑っているかのようだ」 そうした前提を踏まえると意外ではないだろうが、この『Ghosts』はHenkeのコンピューター魔術のダークサイドを辿る困苦の旅である。このアルバムは、タイトル・トラックである "Toku" から幕を開けるが、その嵐のようなドラムとベースの駆け引きに不気味なヴォーカル・ラインが重なりつつ、その下で広がるヒプノティックなホイッスルの高周波はことさらに不安をかき立てている。 前作にあたる『Silence』と同様、この『Ghosts』に収められたトラックの長さはどれも6分以下に収められ、従来のMonolake作品における長尺なサウンドスケープという枠組みからは引き続き脱却を図っている。そして、両アルバムの共通点としてはほとんどのトラックが140BPMに纏められていることも挙げられる。しかしながら、『Silence』と比較して今作ではよりディープなムードを深めており、それは "Hitting the Surface" のような饒舌でクリスピーな低域と滴り落ちるようなヴォーカル、"The Existence of Time"での凶暴なサブ・ベースなどにおいて如実に表れている。 Henkeはアンビエント的な表現力の高さも良く知られており(例えば『Silence』に収録されていたロマンティックきわまりない重要作 "Void" を再確認してみればわかる)、この『Ghosts』では "Phenomenon" や "Unstable Matter" といったトラックでビートが抜けた瞬間にその幽玄さはピークに達する。"Phenomenon" ではダブワイズなベースのリフが冒頭を牽引するが、やがてそれらは不穏でこの世のものとは思えない呻きのなかに消失していく。そして "Unstable Matter" では具体音のエレメントにひねりを加えることでMonolakeの過去作品中でも例を見ないほどの戦慄を用意してみせている。 "Foreign Object"でこのアルバムは最後を飾るが、最終マスタリングの直前に仕上がったというこの曲はリスナーを疲労困憊寸前にまで追いやる最高にスリリングな結末だと言ってもいいだろう。『Silence』、そして『Ghosts』と続くこの三部作の最終章は『Escape』というタイトルですでに決定しているそうだが、そのリリースがいつになろうと楽しみに待ち続けるだけの価値はある。それまでは、Monolakeのこの素晴らしいアルバムを存分に味わっていよう。
RA