John Talabot - fIN

  • Share
  • John Talabot本人に「あなたの音楽は暖かく心地良い」と伝えるべきではない。バルセロナに住むこのプロデューサーは、最近Juno Plusに掲載されたインタビュー内で、ここ数年に渡って自分の音楽に対してつけられたイメージ(特に「トロピカル」など)について困惑していることを語っている。Talabotは自分の音楽がある種の陰影を持つ音楽だと考えているが、彼の意図するポイントは作品を聴けば理解することができるため、非常に面白い意見だと言える。表向きは明るく輝いて聴こえる彼のトラックの下には、メランコリックな感覚や控えめな音使い、そして曖昧な不快感のようなものが矛盾するように存在しているのだ。 しかし、ある人にとっての夏のアンセムが、別の人にとっては悲しみの涙を誘う曲であるように、どう捉えられていようと、彼のトラック群はここ3年程に渡ってありとあらゆるDJセット、DJミックス、そしてコンピレーションに起用されてきた。Permanent VacationやYoung Turks、そしてスペインのHivern Discsなどから"Sunshine”、”Matilda’s Dream”、”Families”などのヒット曲を飛ばしてきたTalabotは、同じスペイン出身のDeloreanのようなパワフルなバレアリックサウンドやハンブルグ系の緻密なディープハウスが目指している、00年代中期までのKompaktやGet Physicalのようなメロディアスな作品群に影響を受け、独自の明るさを持つエレクトロニカ的手法を築き上げてきた。 鋭いセンスを伴った緻密な制作を特徴に持つTalabotのトラック群は、クラブでの享楽的なピークタイムと同様(もしくはそれ以上)に、田舎での散策や、夜の読書などのシーンがピッタリとはまるが、今回Permanent Vacationから満を持して発売されたデビューアルバム『fIN』には、過去数年のエレクトロニックミュージック界における優秀なアルバム群に匹敵するまとまりとストーリー性を持つ音楽が50分以上に渡って詰まっている。アルバム内には距離を取れる位置や迂回路が盛り込まれており、アンビエントテイストの”H.O.R.S.E”と、抽象的で捻じ曲がったディストピア的な”Last Land”は、ボリューム感たっぷりな他のトラックに対して、休息地的な役割を果たしている。また、色気溢れるヴォーカルハウス”Destiny”は、Talabotと同じスペイン人で最近はPermanent Vacationで人気を獲得しているPionalが参加しているが、瞬間的にPantha du Princeのようなベル音が横たわるアンビエントトラックへ変化し、オープニングトラック”Depak Ine”は、鳥や蛙など、ありとあらゆる夜の鳴き声から始まり、それらがピッチを下げたヴォーカルとぼやけたシンセ音の中へと溶け込んでいく(このトラックはTalabotがアルバムのダークな面を考えた時に生まれたトラックの1つであることは間違いないだろう)。 そして“Oro Y Sangre”は魅惑的なメロディの周りを日焼けした強さを持つシンセ音が取り囲んで行く、陽炎をイメージさせるBorder Community系トラックで、また"Journeys”はDeloreanのEkhi Lopeteguiをゲストに迎えた、アフターパーティーでかかるようなチルアウト的ボーカルトラックとなっており、Deloreanの『Subiza』向けのトラックとして完成していてもおかしくはなかった存在と言える。更に他のトラックに目を向けていくと、Talabotは”El Oeste”でFieldやNewworldaquariumのような幻惑的なループや断片的なヴォーカルに、そして”Missing You”で粗いファンクにチャレンジしているが、非常に複雑な質感と深度を持ち込んでいるため、リスナーが二番煎じ感を得ることはない。使われている様々なサンプルは、トラックにあえて混乱を巻き起こさせるために使用されている感さえある。 アルバム最後の曲は再びPionalを起用した”So Will Be Now”で幕を閉じるが、Temptationsの”Just My Imagination”がベースに使用されているこのディープハウスは、アルバムを通じて最も空間的な広がりを感じさせる、エレガントなトラックだ。Talabotが『fIN』、つまりスペイン語で「終わり」を意味するこのタイトルにしたのは明らか。Talabotはインタビューでこのアルバムの出来に満足しており、この作業を完全に終わりにしたかったからこのタイトルにしたと語っている。まだ2月(原文記事執筆時)の段階ではあるが、『fIN』は間違いなく今年の最優秀アルバムの有力候補になるだろう。
RA