Christian Naujoks - True Life / In Flames

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  • 2012年現在のドイツのテクノ・シーンを俯瞰してみると、ひとつにはベルリンを中心とした硬質でハードな所謂Berghain / Ostgutサウンド、もうひとつにはハンブルグのSmallvilleやDialを中心とした淡く抑制されたハウスグルーヴが一見拮抗するようなかたちでせめぎあっていて、それぞれのサウンドのはっきりとした特徴も相まって、対照的で奇妙な対立構造を成しているようにも見える。 SmallvilleもDialも実際にはベルリン産の硬質なサウンドに対するカウンターであることにとりわけ存在意義を見出しているわけではないし、もっと言えばDialは10年以上も前から現在のレーベルイメージを揺るがず確立させている。Dialはもともとソフトでエレガントなディープハウスが伝統的に好まれてきたハンブルグ・シーンの土地性を率直に表現し続けているのだ。 そしてここにDialより届けられたChristian Naujoksのセカンド・アルバムは、ハウスグルーヴの基本フォーマットである4/4ビーツから軽やかに遊離した楽曲構造でありながら、実にDialらしさに溢れた作品となっている。2009年にリリースされたNaujoksのファースト・アルバムはMichael NymanやDavid Sylvian、Steve Reich、ひいてはECMの諸作を連想させるような美しいピアノのメロディーとデリケートなテクスチャーで統一された静謐な「ミニマル・ミュージック」作品集であったが、今作でもそのアプローチは変わらず引き継がれている。 前作ではピアノやマリンバを中心として精密に設計されたクラシカルなミニマル・ミュージック志向が強く押し出されていたが、Hamburg Philharmonyの協力のもとハンブルグ市内有数のクラシック専用コンサートホールLaiszhalleでライブ・レコーディングされた今作は、Keith Jarrettのピアノ・ソロ諸作(『Koln Concert』など)を連想させるようなリリカルな作家性がより露になり、とりわけ自身のヴォーカルを交えた"Moments I"と"Moments II"の連作でのその静かなるエモーショナルさは際立ったものとなっている。 このアルバムには4/4ビーツをはじめとしたリズム的な構成要素は存在しないし、これを「ハウス・アルバム」としてカテゴライズすることはできない。しかし、そのディティールや構成、アルバム全体から立ち上ってくる感覚—つまりサウンドそのものから醸成される、ある固有のエモーション—はこの作品が明らかにDialというエレガントなハウス・レーベルからリリースされているという事実をたしかに主張してくる。Dialのファンであれば決して見逃せない、小さな宝物のような作品。
  • Tracklist
      01. Chamber Two 02. On To The Next 03. Moments I 04. Diver 05. True Life / In Flames 06. Untitled Piano Take 07. You Are Everything 08. Dancer 09. Moments II
RA