Maetrik - Live at Cocoon Ibiza

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  • 2011年、Eric Estornelは長年にわたる雌伏の時を経てMaceo Plex名義でついに大躍進を果たした。彼は長年にわたるキャリアの中で、そのスタジオ・ワークはMaetrik名義でリリースされてきた。彼のDiscogsページをざっと見てみるだけでも分かる通り、彼はスタジオに籠り切っているタイプのプロデューサーであり、その並外れた作品量を一手にリリースするような余裕のあるレーベルはほとんどなかったのも事実だ(彼は昨年ようやく自身のレーベルEllum Audioを立ち上げた)。昨年はMaetrik名義での活動を一旦停止し、Maceo Plex名義でのアルバム『Life Index』を引っさげたライブ活動に専念。その結果彼は昨年のRAトップDJ投票で5位に入る躍進を見せたのだ。 昨年、回数こそ少ないものの彼はMaetrik名義でのライブも行っていた。その中でも、この『Live at Cocoon Ibiza』でのライブは最大級の規模のものだった。このCDにはWhite IsleでのSven Vathのウィークリー・レジデントのクロージング・パーティで行われたライブを収めており、冒頭からいきなり全開で飛ばしてくる。MutabarukaとBobby Kondersの共作による同名トラックからサンプリングした"The Poem"はブレイクダウンのようなスタートからキックとベースラインが一気になだれ込む。Amnesiaのクラウドが一斉に腕を振り上げる光景が目に浮かぶかのようだ。 奇しくもこのMutabarukaの存在はこのアルバムでも重要な役割を果たしている。Maceo Plexでのハウシーな(そして結果的にポップな)方向性が成功したことを考えると、Maetrikとしてのライブもたとえば4年前よりもヴォーカル的な要素が増えていることも頷ける。件のMutabaruka以外にも、ほとんどのトラックでヴォーカルが含まれており、"jazzercise"や"house"といったピッチダウンされた単語であったり、ヴォイスを加工した断片などが脈動するビートの上でシンコペートしている。実を言えば、時折Maetrikの作品とMaceo Plexの作品とどちらを聴いているのかわからなくなることもあるくらいだ(実際に、このCDにはMaceo Plex名義での"Deez Nuts"や"Under the Sheets"などのトラックも収録されている)。 まあ、それ自体はたいして問題にはならないだろう。どちらの名義のトラックであるにせよ、ここ2年ほどの間にEstornelが手掛けたトラックのファンクネスは随所に等しく息づいている。"The Reason"はダークではあるものの、ベースラインは滑るようにうねり、"Pressure"もまた同様だ。彼のDumb-UnitやTreibstoffでの12インチ群と同様、そのグルーヴのスイングは犠牲にせず複雑なサウンドデザインを両立させている。ミニマルテクノであろうとCrosstown調のハウス・トラックであろうと、Eric Estornelらしさは不変なのだ。
RA