Loops Of Your Heart - And Never Ending Nights

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  • Axel WillnerがThe Fieldで手掛けるスタイルは、常に小さなサウンドのかけらがその輪郭をまったく新たなものを連想させるまで執拗にループされるというものだ。しばしば、そこにはある種の情念が立ち上ってくるものだが、このLoops Of Your Heartで彼が展開する世界はつかみどころもないほど透明なものだ。この『And Never Ending Nights』ではしかし、そのアイデアこそ変わらないものの、まったく異なるアングルが導入されていると言えるだろう。ミニマルテクノ的な痛烈なフックを築くよりもむしろ、Loops Of Your Heartは緩慢で長いアナログシンセの律動をもって永遠に続きそうな音楽構造を創り出しているのだ。 ケルンの小さなレーベル、Magazineから届けられたこのアルバムは7曲が収められており、そこにはケルンらしいクラウトロックの伝統と、スウェーデンからベルリンへと居を移したWillner自身の環境における変化が反映されている。実を言えば、このアルバムは中期Clusterからの影響が取り沙汰されるであろうと同時に、かなりの部分で他でもないDavid Bowieのベルリン3部作からの影響が色濃く感じられるはずだ。"Broken Bow"や"Neukolln"での棘のあるテクスチャーや不穏なドローンはBowieの"Warszawa"を思い起こさせるし、もっと言えば"Neukolln"はClusterの"Im Suden"さながらだ。すでに飽和しているようにも見えるコズミック・シーンやクラウトロック・リバイバルという便利なタグ付けからも遠く離れたハイブリッド・アルバムとしてこの作品は仕上がっている。The Fieldがシンセ中心の音楽をやったとしたらと考えたときに想像出来る、まさにその通りの内容だろう。 このアルバムには2つの対照的なモードが同居している。比較的短く、タイトに編み込まれたシンセの音色と、それとは相反する長く反復的なジャムだ。すべてのトラックはループを軸に展開されているものの、その用法はトラックごとに異なっている。"Little You, You Should Develop"では、浮遊するメロディが小さな虫のように飛び交い、その反復的な運動性はやがてメランコリーと消失のエンドレスなサイクルを形成する。いっぽう、"End"ではThe Fieldでの"Looping State of Mind"的な疑似リズムのループが用いられ、コデイン漬けになっているかのような印象を与える。より長尺なトラックではまた違うかたちで印象づけられており、その壮大な広がりにもかかわらず希薄な空間を展開する。"Broken Bow"では微細にその表情を変えながら、やがてテクノらしいビートが顔を覗かせるとにわかに暖かなムードに満たされていく。しかし、アルバムの核ともなっている"Cries"はとりわけ圧巻だ。ひとつのメロディが11分にもわたって繰り返し変化を続け、沈鬱と高揚の間を行ったり来たりしながら、どこか聞き覚えがあるようでいて決してそれに抗えない、ごく自然でエレガントなメロディがやがて浮かび上がる(これこそBrian Enoも得意としていたトリックのひとつだ)。シンセの音色における無限のサステインはその音色変化を実に繊細なものにし、幻聴のダイナミズムとメロディはそのトラック固有の無表情な単一性を演出する。トラック最終盤になり、官能的なギターの爪弾きが静かに入り込んでくると、もはやこのLoops Of Your Heartという意味深なプロジェクト名義も陳腐なものには到底聞こえないはずだ。 ヒプノティックなフックと長く引き延ばされたグルーヴの両方においてWillnerはその傑出した才能をすでに証明していることを考えれば、このLoops Of Your Heart名義が順調なキャリアを歩むこのアーティストにとって新たな成功となったことは別段驚きに値するものではない。しかし、新たなサウンド・ツールを大胆に取り入れながらも、依然として彼以外の誰でもないサウンドに仕上がっている事実はやはり特筆すべきものであろう。この『And Never Ending Nights』はThe Fieldのアルバムとはサウンドという点でまったく異なるものではあるが、それでもThe Fieldが手掛けたものであることはわかるはずだ。ありそうでいてなかった、久々にパワフルなエモーショナルさを持ったシンセ・アルバムだ。
RA