Leila - U&I

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  • 1998年、UKのミュージシャンLeila Arabはロウファイ的な奇妙さを持ちながら非常に完成度の高いアルバム『Like Weather』をリリースした。そのメイン・シングルとなった"Feelings"はベッドルーム的な佇まいを持つソウル・シンガーDonna Paulをフィーチャーし、当時を席巻していたTimbaland、The Neptunes、Rodney JerkinsらのR&Bプロダクションのグロッシーさを歪曲したトラックであった。言うまでもなく、Leilaの音楽が持つ世界観は実に独特なもので、彼女がのちに展開したCourtesy of Choice and BloodやLooms & Bloomsといったプロジェクトでも着実に熟成されていったのである。特に後者のプロジェクトではTerry HallをはじめとしてMartina Topley Bird、Leilaとも馴染みの深いLuca Santucci、そしてLeila自身の姉妹であるRoyaなど、数多くのヴォーカリストと共にコラボレートした。そして、この最新アルバム『U&I』は非常に興味深い内容とともに届けられた。 Leilaというアーティストは昔から常にIDM界の辺境にしっかりと根ざしている印象があるが、このアルバムでの音色構成もまったく正直で主張が強く、非常に興味深いものだ。たとえば、"Activate I"といったトラックは率直に言えばAdultの処女作"Interlace"を彷彿とさせるものだし、また"Boudica"はAphex Twinの最もひねくれた曲調を思い起こさせる(とりわけその細切れになったサウンドや不安定なテンションにおける感覚)。かといって、そこにLeilaらしさが存在しないと言うわけではない。"Eight"はある部分ではKuedo的、そしてまた別のある部分ではFord & Lopatin的でもあるが、オルゴールのようなメロディが独特の不気味さを与えてもいる。 このアルバムにはかつてエレクトロクラッシュで名を馳せ、全方位的な奇才として知られるMt. Simsが大半のマテリアルでコラボレート参加し、アルバムにさらなる色彩を与えている。10年ほど前、SimsはPeachesの男性版のようなかたちで登場したが、Peaches同様にトレンドの波に呑み込まれそうになったところで方向転換し、Planningtorockとのオペラ作品、The Knifeとの共作で彼自身のアーティスティックな立ち位置を確立した。"In Consideration"はまさに素晴らしい共同作業の証明となっていると同時に、Laurel HaloやSleep ∞ Overといった現代的なベッドルーム・エレクトロニカとも見事に音楽的呼応を見せている。"Colony Collapse Disorder"やアルバムからのファースト・シングルとなった"(Disappointed Cloud) Anyway"では、Mt. Simsが主張の強いノイズとアブストラクトなリズム・パターンを施し、また"Welcome to Your Life"や"All of This"では戦慄をもよおすような圧倒的なインダストリアル的興奮をもたらしてもいる。 LeilaとSimsは昨年あるパーティで知り合い、意気投合したのちオンラインでやり取りしながら非常に短期間でこのアルバムを仕上げたそうだ。そのプライベートなムードを匂わせるアルバムタイトルに反し、その内容に人間臭さはほとんどない。むしろ、そこにあるのは社会やテクノロジー、自分を取り巻く人々からの疎外感だ("U&I"ではSimsが「僕らが投資している国はこんなところではない」と唄い、アルバムのアートワークはハードディスクのクラッシュを連想させる)。アルバムに収められた曲のタイトルはことどとく歪んだ構文を共有し、ポジティブでわかりやすい意味性を否定して曖昧な詩情をその底に秘めている。このアルバムはそのサウンドによって表現される切実さを訴えかけてくるかのようだ。
RA