Byetone - Symeta

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  • Raster-Notonの一部の熱狂的ファンにとっては、このByetoneによる3枚目のアルバム『Symeta』の内容はこのレーベルのカラーでもあるプロト・グリッチ/ミニマル的な作風から大きくかけ離れていると受け止められるかもしれない。別の見方をすれば、3年前にByetoneがリリースした『Death of a Typographer』で彼が証明したそのグルーヴに対する繊細な感覚をこの『Symeta』はさらに押し進めたものだと言い換えることもできる。 アルバム冒頭の"Topas"や"T-E-L-E-G-R-A-M-M"は同様にライブジャム的なアプローチで作られ、2曲で一対の構成を成し、その反復的なエレクトロ・グルーヴはヴェテランのb-boyでさえ耳を奪われるだろう。"T-E-L-E-G-R-A-M-M"はパルス状のリングトーンに導かれて始まり、ベースシンセが溢れ出すとともにリズムがダンスフロアに向けて放たれる。対照的に、"Neuschnee"はそのタイトルが示すように冷淡で繊細な美しさを持つ疎構造なトラックで、かすかなドローンが蠢く上に単音のレイヤーが重ねられ、まるでトゥヴァ人のスロート・シンギングを思わせる。 しかしこのアルバム中もっとも重要且つ白眉もののトラックは"Opal"だろう。ゆっくりと燃焼するようなそのトラックは単音のオシレーション・ノートから始まり、それと気付かれないうちにじわじわとパーカッシヴにビルドアップし、燃え尽きるようにエンディングへ向かうさまは見事だ。その反面、"Helix"での歪んだサウンド同士のぶつかり合いはあまりにもノイズが夥しく、このアルバム中ではたいした聴き所とは言えなさそうだ。チューリップ畑をつま先立ちで歩くような"Black Noise"にしても、ロック調のドラムにエレクトリック・ギターを模したような歪んだシンセを絡めるだけでは、せいぜいDidgeridoo"期のAphex Twinを引き合いに出すのが精一杯だ。 アルバムは"Golden Elegy"で幕を閉じる。小気味よいヒップホップ・リズムを軸に、歪んだダイアルアップのモデム・トーンのような音色が絡み付く。それがやがてフェイドアウトすると、20世紀初頭の詩人Heinrich Siedelの社会主義色の強い詩が読み上げられる。Heinrich Siedelは「より善き未来」を夢想し続けた詩人であったそうだが、あいにく私自身は学校でのドイツ語クラスの成績は良くなかったので、詳しくはわからない。このアルバム『Symeta』において、こうして彼本来のサウンド嗜好をさらけ出すことによりByetoneことOlaf Benderは昔ながらのハードコアなファンは多少失うかも知れないが、そのぶんより多くの新しいファンを獲得することだろう。東西ドイツ統一前のケムニッツで仕立て屋見習いとして働いていたこともある彼には、Heinrich Siedelの詩を引用することも彼にとっての新たな方向性を確かなものにするためには必要なことだったはずだ。アーティストなら誰だってどこかの時点で方向性の転換はあってもおかしくないのだ。
RA