King Midas Sound - Without You

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  • リミックスアルバムというものは非常に厄介な存在で、異なるリミキサーが異なる手法で手掛けたリミックスを並べて聴かされるのはなかなかの苦痛だし、そこに骨太さや一貫性といったものを見つけるのは難しい。そんななかでも、2009年にKevin MartinがKing Midas Soundとしてリリースした『Waiting for You』はダブにまみれたロウ・フリーケンシーの祭典とでも表現するべき素晴らしいレコードであったし、そのリリースから2年の年月を経てそのリミックス・アルバムが届けられることになり、否応無く期待は膨らんでしまう。この『Without You』は一般的なリミックスアルバムというよりは、もしかしたらダブ・ヴァージョンを集めたアルバムといった方が正確かもしれない。そう、イマジネーションの再定義としてのダブや、既存のリミックスという概念における音楽そのものの文脈や構造を換骨奪胎してしまうという意味でのダブ、ということだ。したがって、このアルバムに参加している各ジャンルのホットなリミキサー陣の名前よりも、彼らが手掛けた「ヴァージョン」の本質的な中味こそが重要なのだ。はたしてその結果は、エレクトロニック・ミュージック界でそれぞれ異なる個性を放つリミキサーたちの音楽的多様性が見事な調和を成しており、Kevin Martinが手掛けたオリジナルにも劣らないイマジネーションに満ちた作品に仕上がっている。 まずKuedoが"Goodbye Girl"を実に当代的できらびやかなダブステップに仕立て上げ、Hype Williamsは眩いシンセを使って"Sumtime"をさらに際立たせ、Kode9は"Meltdown"を彼の"Black Sun"にも近い繊細さで再構築する。今回Hyperdub周辺のアーティストが多く参加しているようだが、そのどれもがエキサイティングな仕上がりだ。MalaはKing Midas Soundのダブステップ的要素を最大限に抽出し、"Earth A Kill Ya"を圧巻のリミックスに仕上げている。Gang Gang Danceは同じく"Earth A Kill Ya"を非常に騒がしくも楽しいムードに仕立て直し、多様性にあふれたこのアルバムの中でも一際光る存在感を示している。また、リスクを冒しながらもそれらを上手く制したヴァージョンも非常に強い印象を残している。たとえばEchospaceが手掛けた"Goodbye Girl"では、そのオリジナルを印象づけていた特徴的なベースラインをあえてダブ・テクノ的な霧の向こうに封じ込めており、Nite Jewelは"Lost"で彼女のトレードマーク・サウンドでもある気怠いシンセをなびかせ、共にアルバム中でも屈指のハイライトを作り出している。オリジナルとは全く異なる質感やスタイルに仕立てながらも、確実にオリジナルの要素をリスペクトして残しているところが素晴らしい。 このアルバムで興味深い部分はまだある。それは「ヴォイスのリミックス」というべきもので、これもまた本アルバムにおけるダブ要素の強さを示す証拠のひとつだ。そのトラックを作り替えてリミックスするのではなく、ヴォーカリストはかわりにオリジナルのヴォーカルトラックを自分で歌い直す。もちろん、そのバックのトラックはそのままだ。まあ、こうしたアプローチは常に上手くいくはずもなく、当然ハズレもあるわけだが(Joel Fordの子供っぽい声質はやはりKing Midas Soundのトラックに似合っていない)、バッチリはまった時には素晴らしい結果が得られる。Cooly GとdBridgeが自身のヴォーカルをリヴァーブまみれにして歌い直したヴァージョンはオリジナルに匹敵するか、もしくはそれを上回る出来だと言ってもよい。この15ヴァージョンのリミックスアルバム(オリジナルは13曲)に対して贈ることのできる最大級の賛辞があるとすれば、このアルバムが全体として非常に一貫性の高いものであり、同時に内容のバラツキがまったくないということだろう。オリジナルとなった『Waiting for You』と同様、この『Without You』もまた過去/現在/未来に遍在する不朽の音楽性を気付かせれくれる。