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  • 共にジャングルにインスパイアされた要素をダブステップの枠組みに落とし込みつつ、うるさ方のダブステップ・マニアをも唸らせるトラディショナルな感覚も同時に持ち合わせた2人、ロンドン出身のRuckspinとリーズ出身のJack Sparrowによるこのデュオは非常に理にかなった組み合わせだと言っていい。以前にもRuckspinの "Blessings"やSparrowの"Dread"でお互いにコラボレーションを重ねてきた彼らだが、今回ブリストルのTectonicで改めてパーマネントなコラボ・プロジェクトたるAuthorとしてリリースされるこのアルバムは、以前のコラボレーションをさらにディープに押し進めた内容となっている。 地を震わせるような重いベースラインやフィジェット的なパーカッションといった部分はこの2人それぞれのサウンドを知る者にとってとりわけ意外な要素ではないが、その反面ドロドロとしたダークさは希薄だ。ここで彼らが目指したのはそうしたダークさよりむしろダブやジャズへの情熱をダブステップのフォーマットに落とし込み、いわばGoldieが『Timeless』時代にやっていたような高い音楽性(あくまでRufige Kru時代ではない)を140BPMの世界で展開させることだ。Ed Thomasによるソウルフルなヴォーカルを交えたアルバム最初のトラック、"Turn"からそのアイデアは如実に表れている。性急なシンセと熱っぽいホーンが繊細なLFOの律動に支えられて驚くほどスムーズなコンビネーションを聴かせる。ホーンはこのアルバム全体で印象的に使われていて、それが『Timeless』との共通性を尚更強めているのだが、決してギミック的な使われ方は一切していないので、"Green & Blue"のようなトラックにおいてもホーンの音色は実にナチュラルに響いている。また、"Revolutions"や"Drain"といったトラックでの不穏なサウンドのレイヤーも実に効果的で、独特のレイドバックしたスモーキーなムードを演出するのに一役買っている。 いわゆるヘヴィーな低周波にまみれたタイトなダブステップ・トラックばかりを期待している向きには、このようなホーンを主体としたダブステップ・アルバムは敬遠されがちなのかもしれないが、たしかにこのアルバムのリラックスしたムードには困惑するかもしれない。ただ、このアルバムは単に薄っぺらいエキゾチックさをなぞったものではない。"Sun"のようなダブ独特の神秘性をアップリフィティングなかたちで昇華させたトラックは昨年Sparrowがリリースした(彼にしては異例の)ロマンティックなトラック"Loveless"を彷彿とさせつつ、より性急なグルーヴで展開させた趣もある。このアルバムでは旧来のダブステップで散見されたような恐怖的な要素は、その根源的なパワーはそのままに、暖かで力強くエモーショナルな要素に置き換えられている。そう、これはまさに新たなダブステップの次元なのだ。ドラムが重くスウィープするのを好む向きには、このアルバムの後半にまさにそうしたトラックが用意されている。"Mothership"におけるパニックじみたアラーム・コールは強烈だし、"Fix"のようなトラックでは彼ら2人のガラージ・ルーツが素直に表現されている。 Sparrowの音楽的多様性、そしてRuckspinの生演奏に対する興味(Submotion Orchestraなど)を考慮すれば、Authorとしてのこのアルバムの仕上がりは特に意外なものではないかもしれない。これをリリースするTectonicにしても、その意欲的な多方面に対する音楽性の拡大指向を考えればごく自然に受け止められる。彼らにとってダブステップとはもはや実験の対象でもなんでもなく、むしろ自然に彼らのなかに在るものだ。そして、こうしたサイド・プロジェクトにおいてメンバーそれぞれの隠されていた音楽性を浮き彫りにすることがまず第一義にあるのだろうし、実際彼らはこのアルバムでそれを見事に証明している。今後もこうした強い個性を持ったアーティスト同士のコラボレーションが発表されることを期待したい。
RA