Moomin - The Story About You

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  • ちょうど1年前に友人であるOskar Offermannとの共作12インチ「Hardmood/Joe McDaddy」でデビューを飾ったMoominことSebastian Genzだが、デビュー後の彼の活躍と躍進は目覚ましいというほか無い。すでに3枚のシングルを残してきている彼が今回ここに届けてくれたのは彼にとって初となるフルレングスのアルバム。Smallvilleでの同僚Christopher RauやJohn Robertsのアルバムはシャープさを持ち合わせた作品だったが、このMoominのアルバムはどちらかと言えば哀愁すらただよわせるエモーショナルな内容だ。そして、こうした沈んだエモーショナルさをあえて除外しないのがMoominというアーティストだ。内省的なムードと相反する歓喜的なムードをカウンターウェイトとしてうまくバランスさせることで、非常に端正な作品に仕上がっている。 以前彼がSmallvilleからリリースした「Sweet Sweet」のレビューにおいて、Jordan Rothleinが記したところによると、Genzは1曲の基本的なコード構成を7分かそこらで完成させてしまうそうだ。おだやかな波がぶつかりあい、甲高いカモメの鳴き声に導かれて幕を開けるこのアルバム「The Story About You」もまた、こうした彼ならではのシンプルなメロディ感覚を進歩させた要素が核心にある。飛び交うチャイムを加え、Genzは微細なニュアンスを持ったメロディを反復させる。6分ほど経ってトラックを聴き終える頃にはどうやってそこまで辿り着いたか不思議な気持ちにさせてくれる。このアルバム1曲目のタイトルはドイツ語とその他のヨーロッパの言語を組み合わせたいわば造語のようなもので、トラックの性質をいみじくも言い当てている。すごく「ドゥービー(中毒的)」なトラック?たしかにそうかもしれない。じっくりとリラックスして聴くにはいかにもうってつけのトラックだ。 期待の高まるアルバム冒頭を経て、このアルバムはさらにしめやかなタイトルトラックへと潜行を続ける。この「The Story About You」は凛としたピアノやギターが互いに絡み合い、時折陰鬱なハミングが浮かび上がりトラックの物悲しいトーンを強調する。ここからアルバムはやや明るいトーンに転じるが、それでもやはり彼独特の渦巻くようなコード使いと、カラカラに乾いたパーカッションは相変わらずだ。次の"You"というトラックはいわば最もSmallvilleらしさに溢れたトラックで、しかも最もエネルギッシュなトラックだ。挑戦的なハイハットにディレイがかったチャイムの音色が絡まり、非常に魅力的なトラックに仕上がっている。アルバム中盤に登場する "Raw Like 97"や"Untitled"といったトラックも実に美しい仕上がりで、音の宝石箱のようでもあり、「白鳥の湖」的なエレガンスがそれぞれ同居している。やがてアルバムはもとの沈んだムードに徐々に戻り、"Neither One"では重いドラムと陰鬱さが共存している。 多くのリスナーのお気に入りはおそらく先行シングル「Spare Time」にも収録されていた"Watermelon"だろう。Omar-Sの"Strider's World"にも似た巨人の足踏みのようなビートにマリオ・ブラザーズ的なブリープ音が絡んだ実にキャッチーなトラックだ。Omar-Sと違うのは、それほど脅迫的ではないところか。"I Wanna"では、かわいらしい子供のヴォイスが使われていることもあり、アルバム中でも最も特徴的なトラックに仕上がっている。Genz自身の抑制されたメロディ感覚、穏やかな多幸感とそれと相反する沈痛なムードがうまく紡ぎ合わされ、非常に卓越したアルバムになっているといえるだろう。