Seth Troxler - The Lab 03

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  • この『LAB 03』はSeth Troxlerにとっての2枚目のミックスCDとなる。昨年リリースされた彼自身にとって初のミックスCDはBPitch Controlの『Boogybytes』シリーズとしてリリースされたが、リリースまでにじっくりと時間をかけてクラブの現場でテストし、それゆえ新鮮な驚きは失われていたものの昨年のモードをじつにうまく捉えたミックスであったと言えるだろう。前回のミックスCDでの反省点を踏まえ、今回NRKのLabシリーズとしてリリースする今作でTroxlerは新旧織り交ぜた選曲を行い、よりリラックスして制作に向かった結果、起伏の激しさはあるものの全体的に興味深いミックスに仕上がっている。 Disc1では、僕らが思っているTroxlerのイメージ通りのディープでダビーな世界が冒頭から展開されている。冒頭の3つのトラックはそれ全体で1つの展開を構成しており、David Alvarado "Beautification"によってすべてが解き放たれるといった印象だ。Hati Munetsi "Ceremony"と見事なまでに繋ぎ合わされたLindstrom Vs Mungolian Jetset "A Blast Of A Loser"によって分厚い雲は遠く吹き飛ばされ、この後訪れるさらなる展開を用意する。ここまでは、予想通りの展開と思われるかもしれない。しかし、このいかにも無理をしないナチュラルなシーケンスでありながらも、悪魔は細部にこそ宿るというべきだろう。フリークエンシーはそれぞれのペースで自在にモジュレートし、ビーツには自由に呼吸をさせるべくたっぷりと隙間が設けられている。DBXによるダークネスに満ちたクラシックを受けてプレイされるSoul Capsule "Lady Science"はまちがいなくこのミックスにおけるハイライトのひとつだろう。ここから、DeWalta "Farina"がペースを上げるまでミックスは比較的抑制されたムードを保つ。 Disc2では、Kenny Larkinが20年ほど前に作った短いトラックでスタートし、それはすぐにArkやExercise Oneのアンビエント的インタールードへ導かれる。Deniz KurtelがリミックスしたChaim "Alive"でようやくビートが姿を現し始めるが、トーンは依然として抑制されており、アブストラクトなムードを纏っている。Pharaoh Sanders的なサックスを4/4ビーツが出会ったかのようなOni Ayhunのトラックはまさしくそうした抑制されたアブストラクトなムードを如実に象徴しているといえる。Und "Rodeo"がミックスされるあたりでテンポが変わったのも束の間、Dinkyによる素晴らしき"This Is Your Heart"によってこのミックスの循環的なムードが強調される。この後に続くDntelやSuperpitcherがセレクトされた展開はたしかにトランシーと言うことも出来るが、ベースはやはり力強くミックスを引っ張り続けている。Andrew WeatherallがエディットしたRadioactive Man "Fed Express To Munchen"はいささか無理矢理詰め込んだ感もなくはないが、それでもDinky "Time To Lose It"がこのミックスにふさわしいかたちで締めくくっている。 官能的でハウシーなこのミックスは、Disc1で非常にディープな質感でまとめつつ、Disc2ではより冒険的なアプローチをとりながらも、いったんビルドアップを始めると手がつけないほどのグルーヴが暴れ出す。全体として非常に優れたコレクションだと言えるが、Disc1をクラブ・オリエンティッド、Disc2を内省的で実験的なミックスとして完全に分けるよりは、その2つの要素がもっと混ざり合ったものも聴きたかったなとも個人的には思う。
RA