Max Graef - Rivers Of The Red Planet

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  • 『Rivers Of The Red Planet』はベルリンの新星Max Graefによる新アルバムだ。本作は、アルバムというものがミュージシャン各自の世界観を表す最も根本的な手段だった時代を顧みた作品だ。若きプロデューサーにして幅広い音楽を聞いてきた彼にとって、これは決して容易なことではない。Graefはこれまで、アンダーグラウンド・ハウス界において新たな流れを生み出してきた存在だが、彼がRAのWill Lynchに対し、先日語っていた(英語サイト)ように、彼は自身のお金のほとんどを、クラブではプレイ出来ないような古いレコードに費やしている。『Rivers Of The Red Planet』はというと、元々はインストゥルメンタル・ヒップホップのアルバムとして構想されていたものであり、ハウス・プロデューサーだけでなく、MadlibやJ Dillaといったビートメイカーから影響を感じさせる、ゆるめでスモーキーな感覚がある。年代物のジャズ、ヒップホップ、ハウスをさらりと融合させた作品『Rivers Of The Red Planet』を聞けば、Graefの恐るべき才能を知ることが出来るだろう。 危険なムードとコミカルな雰囲気が交互にやってくる旋律によってアルバムは幕を開ける。サックスが絡み合う活気に満ちたシンセは、この作品におけるGraefの大胆な一面を表しており、王道的なジャンルの在り方から解き放たれていることが分かる。優れた作家もそうだが、Graefも表現の長さに緩急をつけている。以前にリリースされていたJan Hammerスタイルの焼け付くように熱いトラック"Vino Rosetto"に代表されるダンス・フロア仕様の収録トラックは、どれも6分以上の曲長だが、対照的に、いたずら心あるタイトルがつけられた"Jazz 104"では、ローズをメインとする艶かしいジャズ・トラックが展開されるものの、開始から程なくしてフェイド・アウトしていく。 雑食な聴覚と早熟な感性によって、音楽的野心に溢れるリスキーなアレンジメントを可能にしながら、Graefは新領域に飛び込んでいる。最も大事なのは、彼は自身の初期作品で用いていたサンプルではなく、代わりに陶酔感のある楽器を用いることによって、先進的な70年代のサウンドドラックや、Herbie Hancockの"Chameleon"のようなジャズ・クラシックスを彷彿とさせるサウンドを響かせていることだ。アルバムのハイライトの1つである"Itzehoe"では、駆け足のベースラインが、Andrésが極めたノスタルジックなダンス・サウンドを思い起こさせるし、Wayne Snowによる柔らかなボーカルが加えられた"Running"は、James Blakeがブーン・バップのリズム・フェチだったらこんなトラックを作るだろうと思わせてくれる。本作でさらにヒップホップ黄金期からの影響を感じるのは、短めのトラックには、様々なドラムやシンセサイザーの特性について教鞭を取るお偉方の乾いた声が含まれているところだろう。 ピークタイム仕様のクラブ・トラックでリスナーの顔をとろけさせることに、Graefは興味がないようだ。代わりに彼がやっているのは、ダンス・フロアから離れた遊び心溢れる音旅行によってリスナーの興味心、そして彼自身の興味心をいつまでも掻き立てることだ。これは真面目に音楽そのものを捉えることに異を唱える真面目な音楽なのだ。
  • Tracklist
      01. Intro 02. Itzehoe 03. Superswiss (Skit) 04. Running 05. Jazz 104 06. Tamboule Fudgemunk 07. Quackeljochen 08. Ohne Erdung 09. Mullholand Drive 10. Drums Of Death 11. Vino Rosetto (Album Mix) 12. Speed Metal Jesus 13. Büchsenöffner 14. Jane 15. Medley Of The Drifter 16. Outro
RA