- 2013年の暮れにかけて、Efdeminは京都で3ヶ月を過ごし、瞑想と日本文化に没頭する時間を中心とした生活を送っている。彼がベルリンのスタジオで構想していたアイデアを拡張して完成した『Decay』はこの場所で生まれた。EfdeminことPhillip Sollmannのサード・アルバムはこれまでで最もストレートなテクノ作品であり、"Night Train"や"Knocking At The Grand"のような土着的なディープ・ハウスからは距離を置き、より力強い雰囲気へと向かおうとしている。しかし同時に、本作は彼の作品の中で最も平和的な作品ともなっており、何よりも平穏な感覚が生み出されている。『Decay』はSollmannの根源の部分においてのアーティスト性を反映したものであり、リスナーにも同様の感覚が得られるように作られたものだ。
熱心なEfdeminのファンにとっては『Decay』に驚くような要素は一切ないだろうが、大事なのはそこではない。"Some Kind Of Up And Down Yes"では、イントロ部分「my body isn't listening to me / 体が言うことを聞いてくれない」というフレーズからマッサージのように心地良いグルーヴへと展開しており、使い込まれた革の椅子に腰掛けているかのように感じるだろう。"Transducer"でのリズムのように柔らかく撫でられているかのような感覚によって、本作は禅に似たエネルギーの流れにたゆたっている。非常に繊細なデトロイト・テクノを蒸留させた"Solaris"でさえ子守唄のようであり、スムーズな質感と暖かな空気に満ちている。
"Acid Bells"を覚えている人なら、Sollmannは非常に穏やかなトラックを見事に仕上げることが出来る存在だということを既にご存知だろう。方向感覚を失わせるチャイム音による"Parallaxis"や、控えめにシャッフルするテクノ"Drop Frame"のようにさらに柔らかなトラックは、その根幹となる部分がどんなテクノ・セットともミックス出来るほどしっかりとした作りになっている。そして"Track 93"の終盤には本当に印象的な瞬間がある。半分、語り口調の歌声をサンプリングし、リズム・セクションをさらに激しく感じさせる効果が生み出され、官能的に紅潮していく。
本作には全体を通じて奇妙なスピーチの断片が所々で用いられており、Efdeminならではのテクノが作り上げる流れるように完璧な世界が遮ぎられている。その様はまるで心地のよい眠りからリスナーを押し出そうとしているかのようだ。こうした深い霧がかかった世界、夢と現実の狭間が曖昧になっている場所こそ『Decay』が存在する場所だ。Sollmann自身が撮影した広大に広がる山々の写真は本作が誕生した場所でもあり、この写真をアルバム・ジャケットに採用したことは適切だったと思う。『Decay』はアルバム制作時のSollmannの精神状態をそのままリスナーが感じ取ることの出来る作品だからだ。
Tracklist01. Some Kind Of Up And Down Yes
02. Drop Frame
03. Transducer
04. Solaris
05. Decay
06. Subatomic
07. Track 93
08. The Meadow
09. Parallaxis
10. Ohara