Kassem Mosse - Workshop 19

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  • 以前まではKassem Mosseの触れ込みといえば、伝統的なハウスやテクノから最もかけ離れた音楽の担い手、というものだった。しかし、それからというもの、変わった音楽、というのがほぼ当たり前になり、Mix MupやWorkshopのボスであるLowtecとEven Tuellらと共に作り上げてきた音楽、つまり、クラブ・ミュージックの中心地から離れた場所に位置する音楽は、逆に中心地に近づく結果になったのだった。Kassem MosseことGunnar WendelやWorkshopが創り上げてきたフィールドでよくありがちな霞んだ質感を似せただけの肩透かしなプロデューサーとは異なり、彼は故意に難解なダンス・ミュージックを作ろうとしたことは一度もない。不安定なメロディ・ラインや、深く霧がかったサウンド・デザインと全体的に漂う鬱蒼とした感覚にも関わらず、彼の作品は控えめながらも非常にグルーヴィーであり、ちゃんとしたダンスフロアで踊るときだけでなく、深いところにダイブする際にも最適なものだ。 『Workshop 19』は、そのWendelによるデビューアルバムだ。特段トレンディというわけでもカッティング・エッジというわけでもない。おそらくプロデューサーとしての個性というよりも、彼の作品が最初に注目を集めて以降のダンス・ミュージックに起こってきたことにフォーカスを当てているのだろう。本作ではニュー・エイジなサウンドスケープを模倣したり、ノイズをいくつも重ね合わせたり、学者がやるようなモジュラー・シンセをプレイしているわけでもない。実際、最初に聞こえてくるサウンドはフェンダー・ローズを2つの音階で鳴らしたものと漂うローランドのリムショットで、他のハウス作品と異なったオープニングだというわけではない。新たな音楽観を提示するというよりも、もしくは所謂Kassem Mosse的なサウンドを得意げにやってみせるというよりも、今回彼がやっているのは自分らしさを失われないように自信のスタイルをさらに洗練することなのだ。 Workshopの作品ほぼ全てにも言えることだが、Kassem Mosseのデビュー・アルバムはレーベルのカタログ・ナンバーをその名に冠し、普段どおりゴム印を押したもので、収録された音楽と完璧にマッチしている。今回はひげ面の男のスタンプが使われていないのだが、もしかしたら熱狂的なファンなら、そこに何か意味があるのでは、と調べてしまうかもしれない。2枚組の12インチはそれぞれ突出したWorkshopのEPといった趣で、緊張感のあるか細いメロディが櫛に絡まった髪の毛のようにリズムの合間をぐねぐねと動き回っている。そのうち1枚目は特に強力で、シングルとしてリリースされていれば、Wendelがこれまでにリリースしてきたものの中でベストのEPとなっていたかもしれない。収録された6つのトラックはビンテージとも言えるKassem Mosseサウンドだ。シャッフルするリズムが重なり合って土台を作り上げ、シンセのアレンジメントは完成までに何年もかかるのではないかと思うほど素晴らしくシンプルだ。サウンド・デザインは羨むほどにKassem Mosseらしさがあり、彼のスタンダードとなったやり方によってトラックそのもの自体も突出した出来になっている。スタンダードとはもちろん、Kassem Mosse作品で最も威力のあるキラー・トラックで5分間に渡るソロ・パートを飾った解読不可能なボーカル・ループの男のことだ。B1では彼らしい物語が用意されており、歪んではいるものの比較的硬派なダブ・チューンとしてスタートするのだが、突如、痙攣するようなハイハットとクラッシュ・シンバルが挿入されている。 短めのビートレス・インタールードと長めのサウンド・ジャーニーがフィーチャーされた2枚目は影を落としたように暗く、より瞑想的なものになっている。Wendelのメロディ、例えば、C2で延々泣き声をあげるメロディや、D1で低域を担当するディープなコードと高域に染み入るメロディは、1枚目に比べると注意深くバランスを取っているものではないのだが、絶え間ないリズムに常に意識を惹きつけられる。完全にクラブ・ミュージックと言えるものではないが、パーティーが盛り上がっているとき、こうした夢見心地の場面がフロアに訪れる瞬間を体験したことがあるはずだ。「There is a way to each and everything / それぞれに、そして全てにつながる道がある」A1で怪しげな声が語る。そしてこの言葉は『Workshop 19』の核を成すものの1つとして展開されている。積極的に変化を作り出すことなくクラブ体験を感じさせるものであるということが、本作を究極の意味で超越的なものにしている。
  • Tracklist
      01. Untitled A1 02. Untitled A2 03. Untitled A3 04. Untitled B1 05. Untitled B2 06. Untitled B3 07. Untitled C1 08. Untitled C2 09. Untitled D1
RA