Sterac - Secret Life of Machines: Remastered and Remixed

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  • リイシューというものはレコード・コレクター泣かせだが、それでも多くの人にとってはありがたいはずだ。アーティストにとっても、自身の過去の作品を再び磨き上げるための良い機会になるし、レーベルにとっても新しいオーディエンスを獲得する絶好の機会となる(先日リイシューされたDream 2 Scienceの12インチが良い例だ)。また、リスナーの年齢や経験とは関係なく、リイシュー作品には過去を切り取るという機能もある。このSteve RachmadがSterac名義としてリリースしたデビューアルバム、『The Secret Life of Machines』は上記に挙げたような良いリイシュー作品の条件をすべて満たしている。オリジナル・リリースは1995年だったため、以来15年以上ものあいだ入手困難な状態が続いていたこの作品は、Discogsでの平均相場がCDで60ドル、ヴァイナルで110ドルと非常に高い値を保持していきた。 このリイシュー・ヴァージョンはいくつかの点においてオリジナル盤とは異なる箇所がある。たとえば、"Thera"はもともとSteracのセカンド・アルバムに収録されていたトラックであり、オリジナル盤の『The Secret Life of Machines』には収録されていなかった。このように、オリジナル盤には収録されていなかったトラックも今回のリイシュー版にはいくつか加えられている。また、Rachmad自身が手掛けた新たなリミックスも数多く収録されており、CD/ヴァイナルの両フォーマットごとに異なるリミックスが用意されている。当然、オリジナルの楽曲もすべてリマスタリングを施された上で収録されているのだが、オリジナルのアルバムが持つ90年代中期独特のムードはしっかりと残されている。90年代中期といえば、テクノという音楽そのものが非常に多様性のある変化をしていった時期でもある。Rachmadもまた当時のこうした機運に乗り、ヨーロッパの第一世代としてポピュラリティを獲得していったアーティストである。 このアルバムでもっともフォーカスが当てられているのは、そのメロディだ。当時はすでにDownwardsなどのハードなサウンドを提示するレーベルも登場していたが、彼らのようなレーベルでさえ依然として音楽的なコードを踏襲しており、アブストラクトな要素は希薄だった。当時はやはりデトロイト・テクノからの影響が非常に色濃く残っていた、ということだろう。Rachmadの作品群はまさしくそうしたデトロイト影響下のヨーロッパ産テクノの典型というべきで、マシーンが奏でるソウルが眩いばかりの輝きを放っていた。オリジナル・アルバムに収録された7つのトラックのうち、"Axion"だけが異例の冷徹さを放ってはいるが、残りの収録曲はタイトルトラックの"The Secret Life of Machines"での寛容さにしろ、多様な色彩を持った"Sitting on Clouds"やさざめくような繊細さを持った"Thera"にしろ、ハートにダイレクトに響いてくるトラックばかりだ。Rachmadの手掛ける明確でカラフルなフックはいまだにその瑞々しさを失ってはいない。 このアルバムに収められたトラックは当然ながらすべてベーシックなハードウェアで制作されているのだが、その事実は刺激的でもあると同時に、少しの落胆を生じさせる。同じサンプルが巧みに輪郭を変えられて何度も使い回されていたり、エフェクト的な要素が希薄なトラックは非常に素朴でナイーヴな印象を与えるが、そこから醸し出される独特のエレガントさは現代のソフトウェア全盛のサウンドには決して追いつけない情感を持っているのだ。当時のサウンドはこうした情感を持ったものが非常に多かった。現代のサウンドに耳が慣れすぎた我々は、こうしたピュアなマシーン・ミュージックが持つ簡潔な美しさを忘れがちになってしまっている。このアルバムは、その事実をはっきりと思い起こさせてくれる。
RA