日本で最初の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発令されてから早1年が経つ。それとほぼ同時期に、東京・渋谷にあるクラブContactは5周年の節目を迎える。当然ながら彼らは昨年、4周年パーティーを開催できなかった。同店の運営会社であるGlobal Heartsは、日本のクラブ業界においてパンデミックから最も大きな打撃を受けている組織の一つだろう。Global Heartsは現在、Contactと、そこから徒歩数分の距離にある大型クラブSound Museum Vision、さらには渋谷を中心にDJバーや飲食店など複数の店舗を運営しており、家賃だけでも相当な金額になる。

幸運なことに欧米と比べて遥かに感染者数の少ないここ日本では、既に閉店してしまったクラブやライヴハウスもあるものの、多くのヴェニューやプロモーター、DJたちが、感染リスクと闘い、悩み、そして政府に更なる直接支援を求める声を上げながら、できる限りの活動を続けている。昨年の夏から秋にかけては多くの野外パーティーが開催され、中にはシークレットロケーションでイベントを開催するプロモーターも（このことがかつての時代のレイヴの面白さを再現しているのも、事実だ）。年末頃には、Contactを含むナイトクラブにも少しずつ客足が戻ってきていた。しかし年が明けてから東京やその他多くの主要都市では過去最多の新規感染者数が確認され、政府は1月7日に2回目の緊急事態宣言を発令。酒類を提供する店舗には午後8時での閉店が要請され（3月21日に緊急事態宣言が全面解除されて以降は、時短要請は午後9時に緩和されている）、クラブは再び通常の深夜営業をすることができなくなった。しかしマイナス面だけではなく、客層やダンスフロアの雰囲気にはポジティヴな変化も起きているようだ。

2回目の緊急事態宣言真っ只中の2月半ば、我々はContactのディレクターであり長年にわたり東京のクラブシーンで働き続けるYuko Ichikawa氏に、この1年間のクラブの状況と今後の見通しについて話を聞いた。

まずは最近の東京の街全体の雰囲気と、クラブシーンの状況を教えてください。

日本では2020年の4月頭に緊急事態宣言が発令されましたが、3月から徐々に、各クラブやプロモーターが自主的にイベントの開催を見送っていました。緊急事態宣言が2ヶ月続いた後、段階的に規制が緩和されて、東京のクラブが再開したのが7月です。そこから12月まで6ヶ月、大多数のクラブが元通りの深夜営業をしていましたが、感染者が増えてきて1月にまた緊急事態宣言が発令されました。今回は飲食店には時短営業協力金が各店舗につき1日6万円（3月22日以降は4万円）出るので、ほとんどの都内の店舗は営業を見送っていますよね。

2回目の緊急事態宣言が出ると発表された時に、いよいよお店が潰れるから今回は従わないという声が多かった気がするんですけど、街を見てみると意外とみんな休業しているなと。

6万円は大きいですよね。1ヶ月間閉めたら180万円になるから、もしかすると小さいお店だったら、家賃を上回ります。前回は1店舗50万円、2店舗以上は一律100万円だったので、それに比べたらまだマシなんです。個人個人の悲壮感みたいなものは少し薄れている気がします。今の方が感染者数や重傷者数も増えているのに、街に暗い感じはないですよね。去年の4月5月とかと比べて、みんなちょっと慣れてしまったのかな？普通に街には人がいるし、イベントができないってなっても前みたいに暗い感じはなく、それよりは国に対して補償を求めるとか、怒り？の気持ちの方が大きくなっている感じがします。

Contactと、Global Heartsグループ全体ではどんな影響がありましたか？

大きなクラブとしてはContact、Sound Museum Vision、それからDJバーのBridge、WREP、Heart。あとはイベントスペースのFreedomとダンススタジオのMission、さらに飲食店のmicrocosmosとFRAMES。全部で9件運営してるので本当に大変です。Contactは去年の2月くらいから影響が出始めました。1月の終わり頃には、海外エージェントから「行っても大丈夫なの？」って質問が多くなって、2月にはDJの来日キャンセルも出ていたし、お客さんも減ってきて。Contactの週末は海外のお客さんが30%くらい占めていたから、それがなくなるのは大打撃です。緊急事態宣言が出た時には全店舗を閉めました。ダンススタジオでも若い子の親御さんから電話が来たりしましたよ、「うちの子が行っちゃうから閉めてください」って。あの時はみんなリモートワークしていたし、街に人が出ていなかったから、飲食店を開けていてもお客さんが来なかったですね。何もお金が入ってこないのに、家賃や社員の給料は払わないといけないから大変。7月から営業再開してもそんなすぐに黒字転換にはできないから、ずっと赤字の状態が続いています。

他のクラブやDJバーは最近アフタヌーンパーティーに切り替えていて、Contactもたまにやっいてるじゃないですか。無観客配信ではなく、そちらをメインにしようとは思いませんでしたか？

Contactも2月3月は土日の昼間をちょこちょこやっています。でも開けることによってマイナスになるなら開けない方がいいって、最初はすごく（会社に）言われたんです。人件費やお酒の仕入れを考えると正直、Contactサイズでは30万売り上げてもトントン。でもなにかやらないと、スタッフもDJも、みんなのモチベーションが下がるし。昼と夜とじゃ色々と違うけど、やらないよりは続けていく方がいいと思うんです。じゃないとこのままDJ辞めようかなってなる人も出てくるのではないかと心配もしました。

8時までのパーティーもやりつつ、配信も続けていくんですか？

はい。とりあえず緊急事態宣言中は収録で月8本配信して、営業が再開したらContact、Visionだけでなく、BridgeとWREP、Heartからも配信はできるようになっています。

最近Global Heartsが始めたサブスクリプションサービスについて教えてください。

配信というよりもクラブのサブスクリプションですね。料金プランがフリー以外に3つあって、一番安いプランは配信を見られる他に、各クラブのエントランス料金が500円オフ。一番高いプランでは月5000円と結構高額なので、全店舗フリーで入場できるというサービスです。有料会員になると当日のライヴ放送の他にアーカイヴが全部見放題。ただ、Contactはもともと会員システムがあるし、早い時間は入場料1000円だったり、どどちらがお得か微妙なところです。Contactはオープンしてからもうすぐ5年で、登録数は5、6万人に上ります。

資金調達としてはサブスクの他に、去年の6月にクラウドファンディングを実施されてましたが、手応えとしてはどうでしたか？マーチャンダイズやドリンクチケットのリターンはどこのお店もやっていたけど、アルバイトスタッフの応援っていうリターンはあまり他では見なかったので、おおっと思いました。

クラウドファンディングで支援を募ることは早い段階から考えていたのですが、お金をもらっておいて閉店しますという訳にはいかないので、再開の目処が立ってから開始しました。他店に比べるとスタートがかなり遅れたので、「みんなお金がなくなっちゃうから早くContactも始めないと！」って言われて心配もしましたが、東京のクラブとしては歴史も浅い中で、多くの方にサポートしていただけて本当に感謝しています。

社員だけしか残せないならお店を続ける意味はないというのが私の考えでした。現在では非正規雇用スタッフも休業支援金をもらえるようになりましたが、クラウドファンディングを始めた当時は何の補償もなかったので、アルバイトスタッフに対する支援は絶対に外せないものでした。

政府からの財政支援は十分受けられていますか？国内の文化芸術方面ではいち早く動きのあったSaveOurSpaceから始まり、最近のSaveTheDanceまで、直接支援を求める様々な署名運動が起こっています。

SaveOurSpaceからSAVE The CINEMA、SaveTheDance他へといろいろ広がって、もしかしたら今までクラブとか芸術とかそういうものにあまり興味がなかった人たちまで署名してくれたのかもしれません。みんなの声が政治を動かすきっかけになるんだと感じました。

会社としては、感染拡大防止協力金と雇用調整助成金、中小企業向けの持続化給付金、Contactには適用されませんでしたが家賃支援給付金の支給を受けましたが、とても十分とは言えません。アーティストや事業者向けには文化庁による文化芸術活動の継続支援事業や、経済産業省のJ-LODlive（海外向けPR動画の制作・配信を行う事業者に対する補助金）などがありますが、いろんな助成金の受付期間が伸びていたのは予算を使いきっていなかったからだそうです。なかなか審査が通らなくて何度もやり直しているといろんな人から聞きました。

去年の秋頃は日本のあちこちで野外レイヴが開催されて、また3月から少しずつ始まっていますね。

Contactでも野外イベントの開催を検討していたのですが、緊急事態宣言が再度出たことで開催を見送りました。屋内より外の方がリスクが下がるのであれば、みんな外に行きますよね。

政府が出している人数制限が5000人ですけど、5000人入るダンスイベントなんて...（注: 3月21日以降は1万人上限、4月19日には人数制限は撤廃予定）

ないですよね。オーストラリアでは11月くらいから結構イベントやっているので気になってチェックしています。マスクなんて全然していないんですよ。オーストラリアやニュージーランドはロックダウンが長かったけど、その効果が出ているってことなのかな？日本も1ヶ月でも厳しく行なっていたら、もうちょっと状況は違っていた可能性もありますよね。ただ、東京のクラブでクラスターが発生したという話はあまり聞いたことがないですよね？私が知らないだけかもしれませんが、どうなんでしょう？

感染対策で言うと、Contactのフロアにソーシャルディスタンシング用のペインティングが描かれていますよね。ただのサークルと違って、アート的な要素もあるように感じます。

再開するに当たってどうやってお客さんにソーシャルディスタンスを促せるのかをみんなで相談して、単なるマス目にするよりはアートな感じに仕上げたくて、今までにもContactで蛍光テープのアートで出演してくれたことのあるMESにお願いしました。完全なソーシャルディスタンスを取ることは難しくても注意喚起にはなっていたようです。

今はどのくらい先までのブッキングを決めているんですか？

例年だったら半年先や1年先まで決まっている案件も多いのですが、先が読めないので動くのも難しいです。去年来日するはずだったアーティストのリスケから進めたいところですが、海外のエージェントとのやりとりも途絶えています。いつになったら入国できるのかも分からないし、2週間の隔離期間があるうちは難しいですよね。今から契約を結んでブッキングフィーを払って、半金を先に振り込んでっていうのはできません。まだどうなるか分からないし、返金作業は手間なので。現状、緊急事態宣言が解除されても、営業時間は10時までに制限されることを想定しています。去年はアニバーサリーができてないから5周年の今年は盛大にお祝いできるといいのですが、どうなるのかまだわかりませんね。朝までの営業ができるようになったとしても、お客さんが来るかっていう問題もあります。東京の営業しているクラブではいつも同じ顔ぶれのみんなが毎週どこかしらDJしているから、なかなかお客さんを集めるのは難しいです。

野外もそうですもんね。

そう。野外のフェスもクラブも、どこも似たようなラインナップになってしまいますね。日本には良いDJはいっぱいいるからローカルだけでも良い内容にはなるのですが、お店の数に対して人数が足りないのかな。どうやって日本人DJだけで300人集客できるようになるのか、会社でもよく議題になります。

300人が一応基準ではあるんですか？（注: Contactのキャパシティは約800人）

それぐらい入れなきゃ形にならないよねっていうことです。300人入れても、黒字になるかどうかはその日の経費次第です。でもコロナ禍のクラブで一つポジティブなのは、今遊びに来てくれているお客さんは、DJを聴きたい！踊りたい！っていう目的意識が強いのでフロアの滞在時間が長くなっていて、人数の割には雰囲気は良かったりします。

さっきのローカルの話に戻りますが、今が日本人アーティストにとってチャンスだって考える人もいるし、逆に出演者側でも、これじゃつまらないよね、早く海外アーティストが来られるようになるといいよねって言う人もいるし、考え方はいろいろだと思いますけど。世界はそんなに広くないというか、飛行機に乗って10時間ちょっとで来られるんだったら、お互いに刺激にもなるし、海外からのゲストも入れる方がいいよねって私は思います。もちろん日本人だけでも楽しいのですが、それがずっと続いていくとどうしてもマンネリというか。なにかちょっと思いついた！と思ったら、あ、別のクラブで決まっちゃってたわ！ってこともよくあるし。

祐子さんは去年の春頃、「私のクラブ人生はコロナで終わる」ようなことをFacebookに投稿してましたよね。今もまだそう考えていますか？

そろそろ年齢的にキツイんです、身体が。毎週末、金曜土曜朝までお店にいて、時々平日でもいたりとかって言う生活が辛くなってきて、楽しいはずのものも楽しくなくなっちゃってくるから、最後に盛大にパーティーを開いて、フルタイムじゃない勤務形態に変えたいなとか色々考えていたのだけど、私が引退するよりも先にコロナでお店が閉まってしまうかもしれない危機に直面した訳です。このまま辞めるのもなんだしね、少し延長して様子を見ようかなって感じです。

2021年、東京や日本のクラブシーンはどうなっていくと思いますか？

この1年を振り返ってみても日本政府の対応の遅さは明らかで、現在世界各国と比べてもワクチン接種にも遅れが見えています。さらにオリンピック開催を優先させたことなども踏まえると、まだしばらくコロナ禍からの脱出は難しいのではないかと予想しています。そうなるとクラブを取り巻く環境も昨年とはあまり変わらなさそうです。

クラブって学校みたいに3年くらいの周期でお客さんが変わっていくのですが、今回は急速に世代交代が進んでいる感じがします。10歳くらい一気に若くなった感じ。コロナ禍でもクラブに来てくれるのは若い世代が中心です。大人世代はキャンプだったり野外イベントに行くようになりましたよね。実際Contactや他のお店も若手中心のラインナップになったと思います。勢いのある若い子達が頑張ってるのを見るのは嬉しいですよね。

昨年はコロナ後のシーンがどうなるかって世界的にも議論されていましたが、最近の海外のフェスの発表を見ているとほとんどは昨年のラインナップのリスケですよね。個人的には大型フェスにはあまり興味がないのですが、海外の動向が日本へも影響を与えると思うので、これからどうなるのかなと見守っています。