多くのDJはナイトライフとファミリーライフの調和は困難だと諦めている。だけど、親としての役割とダンスフロアでの活躍を両立している電子音楽家のママやパパもたくさんいるという事が、以下のインタビューを読めば分かるだろう。もちろんこれは、多少の妥協を無くしては出来ないことだが。何千人ものレイバーを前にするフェスティバルのステージに我が幼子を連れて上がることもあれば、セットの合間にバックステージへと急ぎ授乳するDJも。丁寧で綿密な計画性と、それから犠牲を伴って初めて可能なことである。そもそもは、人生の数々の責務からの逃避を提供することを命題とする業界のことだから尚更。親という仕事となんとも不釣り合いな命題だ。

Will Saul

Pépé Bradockのレコードをターンテーブルに置き、トーンアームを下ろすヘンリー・ソール。若干7歳の彼の背丈は、ミキサーの高さと同じくらいだ。今日は初めてのDJレッスンで、父は息子の熟練ぶりに驚きを隠せない。というのも、ヘンリーがBradockを33回転ではなくて45回転で聴きたいと決断し、まるでフットワークのような音に変わるまでぐんぐんスピードを上げていったのだ。

僕は今、サマセットにあるWill Saulのゆったりとした郊外住宅にお邪魔している。こぬか雨の降るとある3月の一日だ。キッチンには数字の「4」の形をした金色の風船が浮いていて、ディスコライトのストロボに照らされている。昨日は次男オスカー（彼は今僕の目の前でヘンリーとヴァイナルを選んでいる）の誕生日だった。妹のフレヤは2歳で、レコードを帽子のように被ろうとしているところ。

床に散らばったレコードのいくつかは、SaulのレーベルであるAus MusicやSimple Recordsのもの。このレーベルを通じて、Joy OやPearson Sound、Leon VynehallそれからBicepの初期のEPをリリースしながら、彼は新しいタレント発掘のスキルを磨いた。Saulは20代をロンドンで音楽の仕事をしながら過ごした。DJをして、レーベルを運営し、2003年にはレコードストアのPhonicaの立ち上げに関わった。そして今の妻のChristabelに出会う。初めての夜遊びデートはInnervisionsのショーケースが行われていたCorsica Studiosだったという。

初めての子供だったヘンリーは、Saulのキャリア最大のギグのいくつかに付いて来た。5000人を前にしたバルセロナでのセットも含まれる。彼は当時まだ３歳だったが、ステージに登場した。「抱き上げてあげると、観客を見つめていたよ。見渡す限りの人の海。彼が手を振るとみんな手を振り返してくれる。彼の体内にアドレナリンが溢れて来るのがわかったよ。興奮で硬直していたね」と、話すSaul。

当時、Saulは年間に80本以上もギグを行なっており、家に居ないことが家族の関係性に負担をかけていた。「自分の人生を見つめ直して、10年後、子供が増えて、今みたいなスタイルで続けていくことが無理だと思ったんだ」と彼は言う。ツアーを減らす決断をし、生まれ育った田舎に引っ越して、両親の近くでもっとゆったりとしたペースで暮らすことにしたのだ。

現在40歳のSaulだが、ツアーを減らすことが出来たのは、DJ以外の仕事もしていたからだと言う。現在彼はDJ-Kicksのシリーズで知られる!K7 RecordsのA&Rのトップを勤めている。「ツアーを減らして田舎に引っ越すことについて、犠牲だと思ったことはないよ。今やっている仕事も愛しているからね」と語るSaul。「もし3人目の子供が産まれた今も年間80本のギグをこなしていたら、家族が崩壊していたと思う。」

ヒップホップのレコードの穴からこちらを覗いているフレヤは、Saulのヘッドフォンの袋を新しい帽子にしている。ビートに合わせてニコニコと踊る彼女を、さらに興奮させているのが無邪気なコッカースパニエルのルルだ。この光景を微笑みながら見つめるSaulの顔は満足そうだ。「結局のところ、家族にとって一番大事なものは何かが判断基準だよ。彼らが大きくなるにつれて、また音楽を作る時間が増えて来た。またそのうちツアーもするかもしれない」彼は語る。だが矛盾に気づかず、こうも彼は付け加える。「でももしかしたら、この子たちが全員学校に上がる頃にまたもう一人子供を作るかもしれない。僕らは子供が大好きなんだ、何人でも欲しいよ！」

Raica

Chloe Harrisには3人の子供がいる。5歳のジャックはレイヴ・ベイビー。3歳のケイトはモジュラーの申し子。それから1歳のキャメロン、ダンサーだ。一昨年、Harrisの人生はキャメロンが第4ステージの神経芽細胞腫という急進性のガンの診断を受けた事で騒然としていた。彼は現在そのための治療を受けているが、化学療法の中には子供の体には負担が大きすぎて一回しか受けられないものもある。Skypeを通してこの事実について語ってくれたHarrisの声はしっかりとしていたが、彼女の痛みは明白だった。「誰も経験しなくていい類の苦しみだ」と彼女は言った。

この状況はどんな親にとっても苦しいものだが、ミュージシャンである親にとっては、思いも寄らないチャレンジとなった。HarrisはRaicaという名前でDJとプロデュースの仕事を行なっており、さらに夫とともにレーベルFurther Recordsを運営している。キャメロンが病気になる前から、状況は難しく見えた。「私たちの仕事には、通常の仕事であれば頼れるようなセーフティーネットが無い」と彼女は語る。「ギグを断れば、その分だけ収入が減る。」妊娠中と出産前2ヶ月、出産後の1ヶ月はギグのために長距離の出張をすることは出来なかったはずだが、経済的状況から断ることが出来なかった。キャメロンが産まれたわずか1週間後には、彼女はActressとステージを共にしていた。

第一子の出産はHarrisが35歳の時だった。その頃彼女はすでに、音楽家として二つの成功を手にしていた。ひとつめは、プログレッシヴ・ハウスDJのJohn Digweedと2000年代中盤にツアーをしていた頃。観客の期待に沿うだけのプレイを窮屈に感じるようになり、辞めた。当時を思い出しながら彼女は語る。「ある時、私がプレイしていると、酔っ払った観客達が私に近づいて来て、私の顔に向かって大声で唾を吐きながら『もっとハードなのかけろ！』と怒鳴って来たの。その時思ったの、もうやってられないと。それで辞めたの。」

シアトルの故郷に戻ると、ローカルの音楽シーンで忙しく働き周り、モジュラーのワークショップを開催したり、オンライン・ストアを作ったり、Aurora HalalやKassem Mosseといったアーティスト達とプレイするようになった。彼女の音楽性の幅は広がっていった。「誰かのために音楽を作るということは、もうしていない」とは語るHarris。「音楽をやる理由は、自分がリラックスしたり、考えや感情と向き合ったりするための手段。キャメロンが闘病している中でギグを続けたのも、いつも通りの自分を感じたかったから。」

キャメロンの治療に要した費用は$100,000（約1,100万円）を超えており、国の補助を多少は受けているものの、家族の経済状況を大きく圧迫して来た。「とても高価な治療で、ものすごく大変だけど、お金という概念がまるで最初から存在しなかったかのように無視して、続けるの。」

友人が治療費と家族の生活費を集めるためにクラウドファンディングを立ち上げた。最初は、「誰かに助けを求めるなんて、とても悪い気がして」と、乗り気じゃなかったHarrisだが、助けの手を差し伸べてくれる人たち、特にシアトルの音楽コミュニティーからの援助に深く感動させられたという。クラウドファンディングの当初目標は$4000だったが、現在は$23,964を集めることに成功し、いまも増え続けている。「シアトルの人々は本当に暖かい。今までシーンからこれほどまでに大きな愛情をもらったことは無い」と語るHarris。

現在キャメロンは快方に向かっている。最後に僕がHarrisと話した時には、彼の体内にガン細胞は一つも見つからなかった。「彼はこの難病をいとも簡単に見せるから、みんなをおどろかせている」と彼女は誇らしげに語る。クラウドファンディングのページには、彼のビデオが上がっている。ティラノサウルスのTシャツを着て、父の方向に向かってニコニコしながら恐る恐る歩を進める髪のない幼児だ。化学療法の副作用で聴力の障害に苦しんではいるものの、キャメロンは音楽が大好きだとHarrisは話す。「手を頭の上にあげて、お尻を振って踊り狂うの」と笑う彼女。「何事も手を止めて、踊り始めるわ。」

Robert Hood

Lyric Hoodのフェーダー操作は父親に似ることはなかった。彼女のミキサーの操作は、Robertのなめらかで恣意的な操作と異なり、小さく試すようなジャブを入れるスタイルだ。Floorplanの名曲"Tell You No Lie"の歓喜に沸いたオープニングのストリングスをかける彼女を僕は見つめていた。何百もの腕が舞い、リバプールのウェアハウスに集まったクラウドは耳の裂けるような歓声を上げる。

Floorplanの名義は、初めから2世代のHoodのために用意されたものではなかった。二人が泊まっているホテルのロビーで話を聞いた時、この名義でゴスペル色の濃厚なトラックをプロデュースし始めた当初は一人だったものの、ずっとFloorplanプロジェクトはコラボレーションの土壌にしたいと思っていたとRobertは語った。最初のコラボレーションが起きるきっかけは、Lyricの誕生日が1996年の父の日と重なるという偶然から始まったという。だが、この家族と話しているうちに次第に僕は、彼らは偶然性ではなく必然性に光を見ていることに気がついた。Lyricが教会の聖歌隊のためにDJをする様子を初めて見た時の事についてRobertは興奮気味に話す。「素晴らしい気持ちだったよ。運命を感じた。」

アルバム『Victorious』をリリースした直後に彼は娘をFloorplanに加わるように誘った。「彼女のDNAの中に音楽が刻まれているとわかっていたんだ」と彼は語る。Lyricが初めてクラブのフロアでDJをしたのは、デトロイトのMovementで企画されたRobertのギグでの事だった。彼女はそこでiPadを繋ぎ、Katy PerryやMartin Garrixなんかのポップ・トラックをミックスし、観客は当惑し閉口した。笑顔でRobertはこの時のことについて話す。「これとは違うものを求めていた観客も居たことはわかっているよ。でも、僕の内なる声が言ったんだ。彼女を型にはめたらいけないって。」

そのうちLyricの音楽の趣味は変遷し、二度目の出演は2015年のDekmantelのクロ―ジングセットという、初心者にはまるでプレッシャーが小さいとは言えない大舞台だった。だがLyricは観客の数にも、偉大な父の存在感にも、臆することなく堂々とDJをした。Robertが暖かく頷きながら聞く横で、Lyricは話した。「私にとっては普通のお父さんよ。お父さんがDJだからってかっこいいとか、そう感じることはないの。だって家では普通のお父さんで、蜘蛛を殺したり、ゴミ出しをしたり、草刈りをしているんだからね。」

Robert Hood and Lyric Hood

デトロイトDJの中で、我が子にミキサー操作を教え込んだDJはHoodひとりではない。Juan AtkinsやKevin Saundersonもテクノ界の名家を築き上げようとしているが、親子でツアーをしているのはHood達だけだ。RobertはLyricの若さに助けられているという。「彼女は次の世代だからね。だから彼女に響かなければ、若い子達にも届いていないということだ。」前夜、彼らはグラスゴーの若いクラウドに向けてプレイしていた。「若い子達を見ながらふと思ったんだ」と話すRobert。「こんな年寄りが、どうやってこの子達と繋がればいいんだろう？と。彼女が僕と彼らの橋なんだ。」

もちろん、犠牲も伴う。「結婚するまでは、自分中心だったよ」とRobertは笑って見せる。彼はLyricが産まれた時にタバコも酒も辞めた。「自分や自分のエゴを手放すのは、犠牲だったよ。毎日十字架に架けられているみたいなものだ。でも、僕は妻や娘達が必要としている父親の役割を果たしたいんだ。」

強い宗教的価値観を共有する一家にとって、ナイトライフの世界は誘惑や快楽主義に色塗られて見える。「父親として僕は彼女を守ってあげたい。盾となり、ガイドであり、先生としてね。時には過保護になってしまうこともあると自覚している。彼女は誰よりも知っているはずだ、神様が彼女に与えた役割を。だから僕は手を離して、彼女がどんな人間になるのか見守ることしかできない。」

Robertの保護はLyricの着けている貞操のシンボルの指輪に現れている。「お父さんが二人でお出かけに誘ってくれて、その時この指輪をくれたの。『正しい決断をすることをいつも忘れずにいて欲しい』と言っていたわ」と思い返して彼女は話す。僕は、クラブでそのような指輪をしているのは彼女だけかもね、と言う。二人はそれを聞いて笑った。

Lyricは自分の音楽制作を始め、いつかソロでのキャリアも見据えていると話してくれた。Robertが彼女の道に立ちはだかることはないだろうと言うのが僕の予測するところだ。なぜなら僕はその夜このインタビューの前に彼らのDJセットを聴いており、セットの最後の10分間を娘に任せる父の姿を見ていたからだ。父が見守る中、Lyricはひとりでセットを締めくくり、観衆に最後の盛り上がりを与えてなだめすかすのだった。

Nastia

2007年、20歳のNastiaは妊娠8ヶ月を迎えDJを続けていた。「大きい音が胎児にとって良くないと言う人もいる」とスカイプ越しにウクライナの自宅から彼女は話す。「でも、お酒を飲んだり、毎週末のように出かけていたわけではないわ。」彼女はいつでも、自分なりのやり方で物事をこなしてきた。

娘のウリアナが生まれたのは2008年の1月だった、そして4月にはもうNastiaはツアーに出ていた。ロシアのクラブでのレジデンシーがあったので、赤ん坊と母とキエフから電車に乗り込み、向かった。三世代に渡る女達が、彼女のDJとしてのキャリアをサポートするために旅をしたのだ。「当時の私は結構過激だったわ」と、思い出しながら笑うNastia。「ウリアナに乳をあげて、それから何時間かクラブでプレイして、それで急いでホテルに戻ってまた授乳したのを覚えている。」

一年後に夫と離婚した。「離婚した時、私には何もなかった。ギグも、仕事も。今まで一緒に仕事をしたことのある友人達に電話して、半分のギャラでいいから何か無い？って聞いて回った。」そんな絶望的な状況の中で、シングルマザーとして生きていく方法として、DJよりももっと簡単な方法は考えなかったの？と僕が尋ねると、彼女はこう答えた。「自分の愛することをするほど簡単なことは無いわ。私は自分の腕に自信があったから、無からキャリアを築き上げた。」

でもこれは、娘と本来なら一緒に過ごせたはずの時間を犠牲にした。「私たちには何も無かったから、私はキャリアに注力するしかなかったの。ウリアナはいつも二の次になってしまった。」こういう子育てはウクライナでは特に白い目で見られると彼女は話す。ウクライナでは、女性は子育てのために全てを投げ出すものと考えられているからだ。だけど、自分自身を幸せにしないことには、どうやって娘を幸せにしてあげられるのだろうと彼女は考えた。「子供はいずれは自分のもとを去っていくもの。若い時に、自分の人生のために何もして来なかったと言う過ちを犯して悔やみたくなかった。」

31歳を迎えるNastiaのキャリアは、インターナショナルなDJとして開花したと言っていいだろう。昨年彼女は128本のギグを行い、複数のツアーを行い、ようやくアクセルを踏む足を緩めることができる安定を手にした。2019年には、月に少なくとも一度は自宅で週末を過ごすことに決めている。家に居られる時には、普通のDJなら、友達に会ったり、音楽を作ったり、レコードを掘りに行ったりするところを、彼女は全ての時間を娘に捧げている。

家族を取るかキャリアを取るかと言う究極の決断を迫られる状況に陥った時、彼女は睡眠を削る決断をして、執拗なまでに計画的になることにした。綿密に娘の予定を計画して、オーストラリアでDJしながらも、キエフにある学校に誰が娘を迎えに行くかを把握している。

一番幸せな瞬間は、彼女が生きているふたつの世界が交錯する時だ。2016年には、興味津々なウリアナの学校のクラスメイトたちにミキシングの基礎を教授するために機材やスピーカーを学校に持っていった。それから、インド、南アメリカ、カリフォルニアへのツアーに娘を連れて行った。「一緒に旅する一番の相棒よ」とNastiaは言う。でも、ウリアナがお母さんのDJセットを聞くことは稀だと言う。「お母さん、私そこで何をしたらいいの？退屈だからホテルでアニメ見ていたい。」

Nastiaが夜プレイする際には、ウリアナはひとりホテルで寝ることになる。「そんなことして頭がおかしいんじゃないかと言う人もいる。でも、彼女は大丈夫だって安心しているの。彼女にとっては成長の機会だと思っている。最初の夜はひとりで夜中に目が覚めて寂しく感じるかもしれない。でも、次に目が覚めた時には、私がいなくても大丈夫だって気がつくはず。すぐ戻ってくるって。」

Karen Gwyer

Karen Gwyerは母になってから初めて音楽制作を始めた。母親になっていなければ音楽家としての人生を知らなかっただろう。彼女のテクノ・アーティストとしてのキャリアが軌道に乗り始めた当初、小さな息子たちを連れてサウンドチェックに向かったものだった。ある日ロンドンのICAで、息子たちがステージの下に潜り込み、すっかり汚れて戻ってきた。これに気を動転させたGwyerは、まともに機材を繋ぐことが出来なかった。

それから2年後。その息子たちは今、風通しの良いベルリンのアパートでGwyerの横に座っている。ルシエンは6歳で、レミは3歳だ。二人とも愛らしいが、ふらっとどこかへ迷い込んでイタズラをする様子を想像するのは容易い。実際、あまりにも元気に遊ぶので、インタビューをするためには彼らをYoutubeの前に座らせないといけなかったほどだ。「未来のスゴイ車10選！」と言うビデオが功を奏し、子供達は静まった。

アメリカ合衆国出身のGwyerがロンドンに引っ越したのは2005年のこと。その後2017年に夫と共にベルリンに越した。子供が産まれるまではロンドンは快適だったが、子育てへのストレスと生活費が夫婦を苦しめた。その上、レミは深刻なアレルギーに苦しみ、Gwyerは彼に食べさせるための特別の離乳食を買わなければならず、これがあまりに高価だった。「限界だったの。去らざるを得なかったわ。どこか育児補助のある国に住まない限り、音楽を辞めなければいけなかったかもしれない」と彼女は語る。

ベルリンでの家族生活はロンドンに比べて楽だけど、別の障壁が存在しているのも確かだ。子供のベビーシッターをしてくれる肉親もいなければ、家族の誰も流暢にドイツ語が話せない。息子たちは学校でドイツ語を覚え始めた。レミは大人たちの会話に退屈し始めると、「シュピールプラッツ（公園の遊具広場）」に行きたいとねだり始めた。あやすために彼を持ち上げると、きゃーっと声をあげて、床に下ろすと、「Mein hair is in mein eyes（髪の毛が目に入るー）」とドイツ語混じりの英語で文句を言う。

電子音楽業界は、子育てをする親たちには優しく無い。サウンドチェックのために、いつでも予定を空けておくことを要求されるとGwyerは話す。そして、土壇場の予定設定も多く、ベビーシッターを雇う隙も与えてくれないと。どうして、ライダー（要望書）に自分のそう言う都合や要望を書かないの？と尋ねると、彼女はこう答えた。「難しい人だとか、ディーヴァに見られたく無いから。」

Gwyerの初リリースについて、メディアは彼女が妊娠中であることに触れて取り上げた。だから、世間は彼女をアーティストであると同時に母親として認識した。女性にとってはありがちなことだと彼女は付け加える。「男性なら、良き親でありながら誰もそのことを知らずにやり過ごせるかもしれないけど、女性の場合はそうはいかない。どうしても現実的な事情から家族が第一になってしまうから」と話す彼女に、僕は言った。この記事のためにアプローチをかけた女性アーティストが全員快諾してくれた中、何人かの男性アーティストには断られたと。これについて彼女は驚かなかった。「だって、親であることってエッジーじゃないじゃない？キャリアにとって悪影響と見なされるのよ。クールなイメージで売りたいのに、家で赤ちゃんをお風呂に入れたりお尻を拭いたりする様子を想像されたら困るから。」

若い女性の後輩たちが、彼女が音楽家であり母親であることを知った時の反応についても描写してくれた。「みんな目の色を変えて恐怖を示すの。彼女たちはこう考えるの。DJをするのが本当に大好きなんだけど、もしも子供ができた時に同じだけ愛せるだろうか？って。だから私は彼女たちに言うの。大変だけど、なんとかなるのよ、と。彼女たちは、そう考えるように教え込まれているのでしょうね。」

レミはYoutubeに飽きて、機関車トーマスのパズルに取り組み始めた。駅の部分の絵がもうすぐ完成するところだが、最後のひとつのピースが見つからない様子だ。

Gwyerはこれから予定されているフェスティバルのギグの数々について話してくれた。40歳の彼女のキャリアは、いまだかつてなく絶好調だ。「そういうわけだから、私が母親だからかっこよく無いという仮説は反証された。私は音楽業界をありのままに受け入れて、自分の変わった居場所を見つけるだけ、でも私こそがアウトサイダーだと言いたいわ。月に何回かプレイして、平日には音楽を作って、うまくいっている。もちろんもっと頻繁にプレイしている人たちを羨ましく思うこともあるけど、私はその生き方を選ばない。私は子供たちと生きることを選ぶ。」

レミが泣き始めた。パズルの最後のピースが見つけられないからだ。「どこー？」と泣くレミ。

「わからないわ。今探してあげるから。待ってね」とGwyer。熟練の目つきでパズルのピースを探り、見つけてレミに差し出す。

レミの顔がパッと輝く。満面の笑みで彼は言う、「そう！それだよママ、欠けていたピース！」