1996年に人生の転機となる衝撃的な瞬間を思いがけず経験した、今では30代中盤から後半にかけてのエレクトロニック・ミュージックのファンの数は底知れない。その瞬間は、家でテレビの前に座ってミュージックビデオを見ていた時に、突然訪れた。いつものように、ひとつのビデオが終わって、またその次のビデオが流れるのだが、突如画面に現れたのは、廃れた地下鉄の薄暗い影からこちらを睨み返す、目を見開き、体をよじらせ、逆モヒカンといった具合に頭の真ん中を剃りあげたKeith Flintだった。The Breedersの "S.O.S"からサンプリングされた喘ぐギターが、Liam Howlettの殴るようなビートに乗っかる。微動だにしないLiamを背後にグルーヴし、ヘッドバンギングし、韻を踏むFlintは、Johnny Rottenのようでもあったし、MCのようでもあった。常に不可解で不吉なこのフレーズに回帰しながら…「I'm a firestarter, twisted firestarter」

この"Firestarter"のビデオを当時目の当たりにした人の大多数は、レイヴ・カルチャーのハブにアクセスするには、若すぎた或いは遠すぎたため、この類の音楽に触れたことが一度も無かったと言えるだろう。このトラックとFlintの睨み付けるような悪人ヅラは、我々のその後の人生における音楽のテイスト（人によっては人生そのもの）に多大な影響を与えることになったであろう、最初のヒントだった。"Firestarter"（着火剤）とは、言い得て妙である。

The Prodigyは音楽史に影響を与える素晴らしい音楽を作ってきた。バンドのプロデューサーであるLiam Howlettのビジョンによる功績が大きいが、このバンドの最大のシーンへの寄与は、エレクトロニック・ミュージックをマスのオーディエンスへと届けた点にあるだろう。レイブ禁止法がパーティーシーンを潰しにかかった1994年に、The Prodigyはアンダーグラウンドからメインストリームへと這い出た。数々の音楽賞を受賞し、レコードセールスの記録を破っていった。『Fat Of The Land』はリリースから1週間で317,000部を売り上げ、ダンス・ミュージック・アルバムで最速の売り上げ記録を作った。エレクトロニック・アクトの通例であった顔の見えないアーティストという習慣に習わず、ロックやポップのアーティストの領域であったミュージック・ビデオにも本人たちが出演し、ステージに立ってパフォーマンスした。形態として、ダンサーやMCを取り入れる選択をしたことでステージ・パフォーマンスが成り立ったのだ。それが、Maxim RealityやLeeroy Thurnhill、それからFlintだ。1996年にはPhoenix Festivalのメインステージの、David Bowieの前という枠でステージに立った。翌年には、Glastonburyのピラミッド・ステージで初のダンス・アクトのヘッドライナーとして出演した。

流星のようにメインストリームに頭角を現したThe Prodigyは、レイヴ・カルチャーの持っていたそのルーツにあるエッセンスを薄めることなく、臆することなく、論争を巻き起こす姿勢を貫き続けた。Flintはバンドのアウトサイダーらしい気勢を体現する顔であり、そして少なくとも初めのうちは、このアクトの人気への呼び水であった。彼の歯を剥いて唸り、狂気じみた表情で睨む様、そして髪型も含めて、Flintは旗を振ってレイヴ・カルチャーのフリークな部分を見せしめ、音楽ファンを一部では惹きつけ一部では追い払い、また彼の存在はロックのファンにもThe Prodigyの音楽を親近感の持てるものにした。あの地下鉄のトンネルの中で、彼がこちらを睨み付けなければ、我々の多くはこのシーンの流れを知らずに過ごしてしまっていたかもしれない。

今週イギリスの自宅で亡くなったFlintの遺体は、月曜日の朝に発見された。彼のレガシーを振り返るべく、エレクトロニック・ミュージックとポップ・カルチャーを永遠に変えたFlintのアイコンとしてのパワーを垣間見る、ハイライトとなるような映像をいくつかピックアップした。

Flintがそのフリーキーなペルソナを確立させ有名になる何年も前、レイヴ・カルチャーのもっと根っこにある世界観、いたずらで冗談好きなそんな部分を垣間見れるこの映像は、Electronic Punksという海賊版のライブVHSに含まれていたものだ。この映像を見ていると、このバンドが作られたものではなく、本当にレイヴ・カルチャーから出てきたバンドのひとつなんだと、親しみが湧くと同時に畏敬の念が増す。

「彼らは俺たちを見て、あの4人はほんの10分前までクラウドの中で踊って笑い合っていた、そういう風に見るんだ」とエセックスのレーベルSuburban Beatsの1992年のドキュメンタリーの中でFlintは語る。「多分みんな、どこか共感できる、親しみの持てるものを見たいと思ってるんじゃないかな」

このMTV特集は並列してふたつの物語の流れを追う。The Prodigyのレイヴ・アクトからポップ・グループへの変遷と、それからFlintの髪の乱れたレイヴァーから痺れるようなフロントマンへの変貌だ。

下の映像では1991年から2018年にかけてのThe Prodigyの進化の過程と、その期間におけるFlintの変貌が見られる。まだ未熟なハイプ・マンから（そう、Coventryの映像でシルクハットを被っているのが彼だ）、より風変わりで演劇要素のあるパフォーマーに（95年のGlastonburyでは膨らませた風船玉の中から登場）、そして最後に『Fat Of The Land』のヒットでついにロック・スターとなったFlint。そのロック・スターの役を、現在に至るまで彼は果たしてきた。最も最近のパフォーマンスの例として2018年のこの映像を見てみてほしい。ここまで観客を煽って盛り上げることのできるエレクトロニック・ミュージックのパフォーマーはいるだろうか？

そして最後に重要な、Flintがダンサーから作詞家兼MCへと成長し、The Prodigyを国際的なアクトへと飛躍させた曲とビデオの数々。