去年、ダンスミュージックを政治的な観点で考えることが多かった。トビリシのクラブシーンの人々にインタビューをしたときは、レイヴ・カルチャーと社会の変化に深い繋がりがあることがこれまで以上に明確になった。また、オーランドのナイトクラブ、Pulseで悲劇が起きたことを知ったときは、社会の端に追いやられた人々、特にLGBTQの人々にとって安息の地であるはずのクラブが、今どれだけその役割を果たすことができているのか、考えさせられた。

2017年には、こういったことはどんどんと無視できないトピックになっていきそうだ。イギリスのEU離脱、トランプの勝利、そして右に揺れるヨーロッパ情勢などは、ダンスミュージックの核を成す信念に反するものであり、私たちのコミュニティーの存続の危機すら示唆する。今後の行方に不安が募る今、心から願うのは、ベルリン拠点のRoom 4 Resistanceなどの団体の政治活動や、Plus1のようなチャリティー・キャンペーンを通じて、あるいは単純に、自分の基本的人権が脅かされていると感じる人々にとって頼りになるコミュニティーであり続けることで、クラブカルチャーが世のため、人のためになる勢力であると証明されること。そしてまた、現代社会を象徴する性質となってしまった、人と人の対立とは、ダンスミュージックが距離を置くことを祈る。音楽が人々を繋げる、というと陳腐な言葉に聞こえがちだが、紛れもない事実だとも言える。それはダンスミュージックに限ったことではない。大切な人間関係のきっかけに音楽がある人は、きっと少なくないはずだ。意見の食い違いで分裂する人々で溢れかえっている現代社会、それは幻想だと払い除けるべきではない。

さてポジティブな面としては、音楽の未来は今特に明るいのではないだろうか。2017年が始まってまだ数日しか経っていないが、Young Marcoの『Selectors 002』といい、 Laraajiの『Celestial Vibrations』のSoul Jazzによるリイシューといい、Leifによる10インチ・シリーズの第1弾といい、すでに僕の「new music」プレイリストが着々と素晴らしい音楽で満たされている。楽しみなイベントも多く、Nachtdigitalの20周年記念イベントは歴史に残る回になりそうであり、多くのクラブイベントやフェスでも様々なサプライズが待っているはずだ。雲行きの怪しい今年の行方には恐怖しか抱かないかもしれないが、今年も音楽は、相変わらず、私たちの心の拠り所であり続けることは間違いない。

良いDJとは、様々な時代、テンポ、サウンドやスタイルの間を、美しく線で結ぶことができる人だと思っている。これは、なんとなくやってできる業ではない。何時間もかけてレコード箱やウェブサイトを掘り漁って集めた楽曲を、いかに一貫した、踊れる流れで繋いでいくかが重要だ。2016年はディガーDJたちが活躍した1年だった。特に印象的だったのは、Dekmantelのメインステージのクロージングを担当したMotor City Drum Ensembleの勇姿。加えて、Hunee、Sassy J、Antalらも去年はダンスフロアからたくさんのラブコールを受けていたが、汗水たらして音楽を発掘し、大胆な選曲で人々を魅了する彼らに相応しい称賛であった。

こういったディガーDJたちが増える一方、その副作用で興味深い現象が起きている。まずは、レアなレコードへの関心が高まっている点。中古市場ではバカバカしい程高額なレコードの売買が日常茶飯事になっている。それは健全とは言えないだろう。さらに、やたらと曲名を知りたがる人が増えたのももうひとつ。これはエレクトロニック・ミュージック全体で言えることだ。ダンスフロアでShazamの青い画面を光らせてる人を見かけたことがない人は少ないだろう。今年、僕はスマホをポケットにしまい、音楽に夢中になろうと思う。

去年はまた、非西洋音楽（もっと良い言い方があればいいのだが）の面白さに気づいた1年となった。中でも特に心を奪われたのが、ピアノを演奏するエチオピアの尼さんの1963年のアルバムの再発盤、80年代にフランス領西インド諸島から登場したズーク・ミュージックを集めたコンピレーション、そして日本のレーベルBetter Daysの楽曲集であった。昨今、世界中の新旧の音楽が手に入りやすくなっていて、今年はもっとたくさん探ってみたいと思っている。

さて、西洋音楽でも今年は楽しみなことが多い。Toresch、Willow、Carla Dal Fornoの次のリリースが待ち遠しいし、Jonny Nashのアルバムも首を長くして待っている。しかし最もワクワクしているプロジェクトは、Leyland KirbyのThe Caretakerかもしれない。2017年も“虚無”へと進み続ける同シリーズは、認知症をテーマとした興味深い作品であり、Kirbyによると、残りの5枚のアルバムを今後数年かけてリリースしていく予定であるとのこと（こちらの記事に詳しく書かれている（英語））。ハッピーエンドとは言えない最終章に向かうにつれ、どんどんと聞きづらくなっていくそうだ。

クラブ遊びもしっかりした2016年だったけど、一番楽しかったのは、フェスティバルで刺激を受けながら勉強ができたこと。アムステルダムのSonic Actsとデン・ハーグのRewireは特に印象的だった。エネルギーの詩学と原子物質の混沌を表現した衝撃的なオーディオ・ビジュアル・シミュレーションに心身ともにやられた。17世紀の教会の信者席にいながら、マダガスカルの人里離れた雨林Amber Mountainでの日の出を体験した。そしてお気に入りのテクノ・ユニットのひとつ、Lakkerを通じて北アフリカのグナワ音楽を初めて聞き（もっと聞きたくてモロッコまで足を運んだ）、オランダと海の、激情に駆られた関係性についても学ぶことができた。

ヨーロッパは、たくさんの大胆でダイナミックで多様なイベントに恵まれている。これらのイベントは、クラブカルチャーの周辺に渦巻く、政治、社会、テクノロジー、経済といったトピックを巻き込んだプログラムを催している。さらにWe Are EuropeやSHAPEといった団体が、ヨーロッパの急進的な才能をヨーロッパ中のプラットフォームを通じて私たちの元に届けようと動いている。だから2017年、クラブ遊びをする上で保守的になる必要はもうないし、私は今年も、より多くの刺激を受け、勉強をしようと思っている。皆もそうするべき。もし私たち皆が、慣れ親しんだゾーンから抜け出して、新しい領域に積極的に踏み入れようとすれば、きっと年末のpollも違ったものになるんじゃないかな。

世界の音楽シーンはより国際的になっているけど、土に埋まっているダイヤを自分で掘り起こすのはまだまだ難しい。だからこそ、もっとBrian ShimkovitzやNan Kolé、Andy Votelといった熱心な、民族音楽学者的ディガーが増え、私たちがまだ知らない大陸や文化を紹介してほしい。そして、名前の通り、“彼方からの不思議な音”を届けてくれるStrange Sounds From Beyondのようなフェスにもっと出逢いたい。あと私がなかなか行けない国で行われるパーティーを、Boiler Roomのレンズを通して覗き続けたい。そして、（ライターの）Ben Ratliffの助けを借りて、そうやって吸収したものを、広い視野でとらえて、ジャンルに縛られず、直線的すぎない形で文章にしていきたいと思ってる。

最後に、今年はFlava D、SØS Gunver Ryberg、Mira Calix、Or:la、Kiki Hitomi、Aïsha Devi、Zora Jones、ASMARA、Moor Mother、Marie Davidson、Puce Mary、Geneviève Pasquier、DJ Barely Legal、Madam X、Reka、Lux E Tenebris、Volvox、Yuka、Dasha Rush、Machine Woman、Beatrice Dillon、Anastasia Kristensen、Laurel Halo、Nadia Rose、Pan Daijing、Klara Lewis、Holly Herndon、SKY H1、Alis、Gazelle Twin、Mica Levi、Nkisi、Pharmakon、Suzanne Ciani、Umfang、Kara-Lis Coverdale、Kaitlyn Aurelia Smith、Poppy Ackroydをもっと見て、聞きたい。そしてまだ知らない女性アーティストや女性自認アーティストに、今年出会えるといいなと思ってる。

「それが最初に流行ったときを覚えている」と言えてしまう年齢になってしまったという、心地悪い事実を認めつつ、2017年の予言をしようと思う。20数年間この音楽を聞いてきた経験と、ニュートンの作用反作用の法則、そしてダンスミュージックの流行は繰り返すという自明の理をもとに、今年は以下のことが起こるのではないかと予測する。

全体的に言うと、ここ数年のテクノはだいたい同じくらいのテンポ（130 BPM）とトーン（主に暗い）を踏襲していたように思う。インダストリアルとノイズの影響がその定形を崩すときがあったが、テクノの音楽的雛形が大幅に覆されるようなことはなかった。90年代後半のループテクノ・シーンは、結局クリエイティブ面で壁にぶつかり、廃れたことで知られているが、あのシーンのスピード感（140 BPM以上）とスウィング感は再評価に値するのではないかと感じる。最近、The Advent、DJ Rush、Surgeon、Stephen Brown、Oliver Hoらの古いレコードを久しぶりに聞いてみたが、不思議なまでに楽しいと感じるものがあった。Y軸に“テンポ”で、X軸に“ファンク”、それに更に何か新しいものが加わったら、面白いことが起きるかもしれない。

さて、スピードの話で言うと、逆もある。同僚のAngus Finlaysonが、最近100 BPM以下のセットをやるDJが増えていると言っていた。それは僕も気づいていたことであった。彼はそのトレンドを牽引している人にCall Super、Objekt、Ben UFOといった名前を挙げた。僕も以前から、Night Slugsがこのくらいのテンポでやっていることがとても興味深かった。この動きは歓迎だ。なぜなら、このテンポではダンスフロアの盛り上がり方が全く違うものになるからだ。特に、ヒップホップ、ダンスホール、ダブといったものが混ぜ合わされたとき。さっき言ったことと矛盾するようだが、僕が知るかぎりでは、いわゆるダンスミュージック・クラブでこういったテンポが流行ったという事実はこれまでになく、DJやプロデューサーにとって面白い方向性になるかもしれない。

エレクトロはトレンドというものに左右されず常に我が道を行くと言われている。だとしても、DJ Stingray、The Exaltics、Ectomorph、E.R.P.、DMX Krew、B12、Helena Hauff、Gerald Donaldといったアーティストは去年これまで以上に注目を集めていた。エレクトロを構成する808ドラム、スペーシーなパッド、そして跳ねるリズムといった要素の組み合わせはダンスミュージックにおける定番のひとつだが、2017年には、もっとネジが緩んで、音楽的な幅を広げてしまうアーティストが出て来るのではないかと期待している。

これを言うと呆れた顔をする人もいるだろうが、最後に予言したいのは、ダブステップ初期のサウンドが、何らかの形でカムバックを果たすのではないかということ。Kahn & Neek、Commodo、Orson、Gantz、Goth-Trad、Silkieらがダブステップの伝統を受け継いできたが、そろそろ新世代がこのサウンドに初めて出会ってもおかしくない頃である。その結果で生まれるものが必ずしも良いものとは限らないが、少なくとも初期の作品は忘れられてしまうにはもったいなすぎると思うのだ。

2016年のイビサ島の一大ニュースはSpaceの閉店だった。Spaceは、どのクラブよりもこの島の自由奔放なパーティーの信念を伝えていた。クラブが閉店したことで、Carl Coxの火曜日夜のレジデンシー、Music Is Revolutionも終焉を迎えた。こういった変化は残念だが、現状が何らかの形で変わっていくべきではあると、以前から感じていた。イビサにはあたらしいスペース、新しいイベント、新しい顔ぶれが必要だ。噂通り、Spaceが深夜営業のUshuaïaに変わり、VIPテーブルやEDM DJに溢れたクラブになるのだとしたら、少なくとも、島の他の場所でSpaceの穴を埋めようとする人たちが現れるだろう。Privilegeかもしれない。あるいは、San Antonioか。いや、もしかしたら新しいクラブができるかもしれない。イビサ島の今後の行方は不明瞭だが、それがエキサイティングでもある。

去年の夏は警察による摘発、営業ライセンス剥奪、騒音問題といったことばかりを耳にしたが、素晴らしいパーティー体験もあった。Nightmares On WaxのWax Da Jamや、Mark BarrottのHostel La Torre、そしてArtworkのArt's Houseといった小さくてアットホームなパーティーは、客がフレンドリーかつオープンマインドで、音楽はディスコからダブ、アンビエントまでと幅広く、イビサ島のあまり知られていない一面を見せていた。そしてDJ Harveyが主催するパーティーのように、素晴らしいアーティストをブッキングし、制限のない快楽主義に浸れる空間を演出する良質なパーティーを、Ibiza Rocks HouseことPikes Hotelがもっと開催してくれることを期待する。

もっと広い視野でとらえると、Sankeysであっても他の場所であってもいいから、Unusual Suspectsが今後も活躍することを願う。イビサ島にはもっとBinh、 Francesco Del Garda、Rhadoo、VeraのようなDJが来るべきだ。こういったDJから、激しいテクノだけじゃなく、他のものをプレイしてもいいのだということや、ハウスもテクノも穏やかであったり、トランス状態に誘ったり、客を驚かせるようなものであってもいいのだということを多くの人が学んで欲しい。イビサ島でもフレッシュで興味深い音楽が受け入れられるのだと、こういったパーティーは証明している。2017年には、その発想がさらに展開されていくことを期待している。

2016年の、主に政治的なできごとに未だにショックを受けているから、2017年の見通しにはあまりポジティブな気持ちが持てないのが本音。だから予測ではなくて、希望を語らせてもらいたいと思う。まず、私が深く関わっているアンダーグラウンド・エクスペリメンタル・ダンスミュージックのシーンを始め、カルチャー全体が、世の中とより密接に交流をする方法を見つけることを祈る。特に私が興味を持っているシーンでは、人々はそのコミュニティーの中に留まって、自分たちは世間と違うんだと考えて満足してしまっているケースが多い。でも実際、そんなことはない。

広く敬愛されている音楽家、Brian Enoが元旦にFacebookに投稿したメッセージは、現在の世界の状況をとても希望に溢れた観点から捉えたものであり、私たちひとりひとりにできる現実的なアドバイスをしてくれた。そして私たちと同じ世界に存在し、賢明で明快な言葉で、皆にとって有益な考えを提供しているのはEnoだけではない。もしあなたにも良い考えがあるなら、それは共有するべき。もし発表の場があるなら、例えどんなに規模が小さくても、活用するべき。ベルリンのプロデューサー、Ziúrはまさにそれをやり、友人たちのトラックを集めてコンピレーションを監修した。同コンピレーションは無料でダウンロードできる代わりに、お金をチャリティーに寄付するという約束をさせる企画だった。私たちの多くは同じことを求めている。多様な人々が一丸となれば、それは力になる。

多様性で言うと、2016年のなかでもハイライトだったのが、Jace Clayton（別名DJ /rupture）の素晴らしい著書、『Uproot: Travels In 21st Century Music And Digital Culture』であった。Claytonは勇敢なだけでなく、尊敬心のある探検家だ。様々な地方で鳴っているローカルなエレクトロニック・ミュージックに触れる機会が増えている今（gqom（ゴム）DJを去年初めて体験した）、同書での彼の独占的ではない文脈を大事にした音楽との向き合い方を、私たちは手本にするべき（まだ未読の人にはこの本を一読することを薦める。きっとなにか得るものがあるはず）。エレクトロニック・ミュージックのアンダーグラウンド・コミュニティーが必要としている活性化は、こういった世界各地での発見だったりする。DJ /rupture名義で活動するとき、Claytonは世知にたけ、排他的でなく、楽しく、決して教育的ではない。

そして最後に願うこと。2017年に私たちのシーンは新しいアイディア、政治的な談話、そして楽しみを生み続けることができること。私が求めているのは、ダンスフロアで我を忘れること。それは今年も唯一変わらない。

2016年1月に、僕はミニマル・ダンスミュージックが向かっている方向に興奮を覚えていると綴った。それから1年経った今は、もう同じ気持ちとは言えない。[a:rpia:r]のレコードよりもPlus 8をかけるDJが増え、ステディーなグルーヴとメロディーの代わりにピコピコ音や早いテンポを好む傾向が強くなった。注目を浴びて、持てはやされるにつれ、つまらないものになっていくという、他の音楽スタイルでも幾度となく起きた現象が目の前で起きている。他の人の作品にインスパイアされることと、模倣することの境界線がまたもやあいまいになっており、どんどんと同じものが増えているのが現状だ。

独創的なものが登場すると、大勢がそれを真似し、模倣が氾濫するというサイクルから、ダンスミュージックが逃れることは出来ないのだろうか？とあるDJによると、今やDiscogsでレコードを売っている人にプライベート・メッセージを送り、過去にどのDJにどんなレコードを売ったかをきく人もいるらしいが、それは問題だ。Zip、Onur Özer、Sonja Moonear、Dorian Paic、Vera、Nicolas Lutz、Dana Ruh、Binhといったアーティストがなぜ何年も最前線で活躍することができているかと言うと、彼らはやるべきだと思うことをやるのではなく、やりたいと感じることを優先してやっているからだ。流行りを追いかける傾向がダンスミュージックにはあるからこそ、Koolt、Fabricio、Melina Serser、Emilio、Z@Pらモンテビデオのシーンは重要だ。彼らはモダンだが、今ベルリン、ロンドンやパリで起きているトレンドに影響されないくらいの距離を保つことができている。

だから今年、Nicolas Lutz、Marcel DettmannやMotor City Drum Ensembleがかけたという理由でレコードを買うのはもうやめよう。あるいは、Spacetravelの真似をして、エレクトロっぽいクネッたハウスを作るのはやめよう。そしてTreatmentがやったからという理由で、113 BPMのエレクトロ／テクノ・セットをプレイするのはやめよう。そうではなくて、自分の道を切り開こう。

去年、アーティストと会話をしていて、ひとつのテーマがよく話題にあがることに気がついた。それは、制作プロセスにおける固定の考え方に疑問を抱くことの重要性。A Made Up Sound、Klara Lewis、Peder Mannerfelt、Kyokaらが皆、音楽を制作する上では知識は必ずしも力になるとは限らないことを語っていた。むろん、制作において知識をつけることは重要じゃないわけではない。むしろその逆だ。しかし常に技術の向上方法が目の前に提示されている状態にあると、それがあまりにも普通になりすぎてクリエイティブな選択を自分ですることができなくなってしまう危険性を孕む。特に、エレクトロニック・ダンスミュージックのようなある程度固定のプロセスが存在するジャンルになると。創作において、自分が全てをコントロールできたほうがいいというのが常識的な考え方だが、これらのアーティストは、あえて全てを自分でコントロールしないことで、それまで進んでいなかった道を見つけるチャンスを自分に与えているのだ。

この考え方が、「良いトラック」と「素晴らしいトラック」の違いを生むケースが多い。その違いは明確に言葉にするのが難しいが、聴けばわかる。例えば2016年には、微分音のメロディーやシンコペーションのあるベースラインを意識的に取り入れるポスト・ミニマルのプロデューサーが多く見受けられたが、制御されたプロセスではなく、直感を頼りにして制作しているように聞こえたのは、Traffic Records関連アーティストやSpacetravelなど、数少ないアーティストの作品くらいだった。アーティストがどうやって音楽を作るべきかは、僕が言うことではないが、2017年には挑戦的に取り組み、まわりのプレッシャーにまけないアーティストが増えることを願っている。

12月に起こった、オークランドのウェアハウス・パーティーの恐ろしい火事
を受けて、アメリカのアンダーグラウンド・ダンスシーンには2017年の年始から不安が漂う。火事のあと、すぐにエレクトロニック・ミュージックは悪者にされ、DIYスペースは閉鎖され、害のない小さなヴェニューはメディアの標的にされた。しかしそういった動きへのアーティストたちの反発は、いかにこれらの空間が大事なものかを物語っていた。

火事は、エレクトロニック・ミュージック・イベントに政治性を持たせる効果があったが、それは丁度、エレクトロニック・ミュージックが意義ある形で政治と向き合うことをし始めていたときであった。去年、注目を集めたDiscwoman、NONといったグループや、Chino Amobi、Lee Bannonなどのアーティストたちは、自分たちの人種、性別、セクシュアリティといったことを通じて表現をし、自己主張する。そしてそれを彼らはエクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックというレンズを通じて行う。それはときに聞きづらいものであったり、心地良いものであったりするが、 “エクスペリメンタル“という言葉が大抵の場合示唆する、アカデミックな世界とは一線を画したものである。

Lechuga ZafiroとPobvioが運営するSALVIATEKレーベルはラテン音楽を植民地化から解放しようと活動しており、その結果として南米から今これまでにないほどにエキサイティングなダンスミュージックが登場している。NONがリリースする烈火のような作品たちは、アフリカン・ディアスポラ体験の挫折と美を伝える。Club Chaiが近日リリース予定の素晴らしいコンピレーションには、そのディアスポラの一員であったり、女性自認やトランスジェンダーのアーティストの楽曲が含まれる。今にも爆発しそうな、予測不可能なこの音楽は、政治的思想を持ってジャンルを破壊する。自分たちのアイデンティティの表現として、ルールは無視され、壁は力づくで壊される。こういったアイデンティティがなかなか受け入れられない世界で、彼らは自分たちの力強さを主張しているのだ。

2017年に登場する最も刺激的なダンスミュージックは、派手なナイトクラブやハイスペックなサウンドシステムが似合わないだろう。こういった音楽はボロいバー、倉庫、スタジオ、ギャラリー、そしてコミュニティー集会を最も必要としている人々が居座る空き家などで聞かれるだろう。迫害を受けた人々や圧制された文化からダンスミュージックが登場したというのは、もはやただの伝説のようになってしまっているが、前述した若いアーティストたちこそが、エレクトロニック・ミュージックに勢いを取り戻させており、侮れない勢力としてまた影響力を発揮することを実現させているのだ。