アンダーグラウンドダンスミュージックレーベルFirecracker Recordingsを手掛けるLindsay Toddは、2014年後半に古い友人を3人率いてスコットランドのハイランド地方を巡った。彼らは様々なブロック（スコットランドにある鉄器時代の石造りの砦。防衛軍事目的で使われたとされる）でキャンプをしていた。スコットランド森林委員会の経費で行われたその旅がきっかけとなり、『Mac-Talla Nan Creag』と名付けられた多岐に渡るコラボレーションアルバムが誕生した。それについてToddは次のように語る。「丘を歩くことはそんなになかったけど、ウィスキーをたくさん飲んだり、周りを塀に囲まれた場所で四つん這いになったりした。そこにあった建物の多くは青銅器時代のもので、中にはボロボロのものもあった。そうじゃないのもあったけどね。天気がひどかったんだよ」

Toddは続ける。「最終日にCaisteal Grugaigという場所を見つけたんだ。中にはいくつか小部屋があって、そこの音の響きが面白いと思ったんだ。それで、俺たちがやっていることは基本的に何千年も昔に先祖たちがやっていたことなんだろうなって思った。ウィスキーや、加工してない麦の酒みたいなものを飲んだり、マジックマッシュルームとか、いろいろやったりしてさ。俺たちも同じことをやっていたんだよ。原始的にみんなでワイワイやっていただけなんだ」

そして誕生したコンピレーションアルバムでは、Toddがレーベルのリリースを通じて築いてきたコズミックなタペストリーにスコットランドの伝統的フォークが織り込まれた。それは、エレクトロニックミュージックシーンで極めて特異なレーベルの歴史において新たな節目となる重要作だ。

Todd曰く、Firecrackerは倦怠感から生まれたのだそうだ。00年代前半、彼はレコード店で働いていたが、店の棚を埋め尽くすリリースが同じものばかりであることに不満を募らせていた。Theo ParrishやMoodymannにレーベルのインスピレーションを求めたToddは次のように語る。「今みたいにクリエイティブなエネルギーが溢れているとは感じられなかった」。そして初期リリースの多くではHouse Of Traps名義で知られるToddがLinkwoodことNick Mooreと一緒に住んでいたフラットのスタジオでコラボレーションした作品がフィーチャーされた。

ToddとMooreによるコラボレーションであり、レーベルが初めてプレスしたトラックである”Miles Away”は、じわじわと盛り上がるソウルフルなハウスクラシックで、スクリーンプリントされたスリーヴに80年代のマーベルコミックのワンシーンを描いた10インチパッケージとしてリリースされた。芸術学校で学んだToddは自身のレーベルの場当たり的な誕生について次のように語る。「いつも利用できるものは何でも使っていた。フラットに転がっていたものとか、俺たちがハマっていたものとかね。最初は即時的でパンクとかDIY的だった。みんなは俺ら周りのアーティストだし、スタジオも自分たちのものだし、ジャケットは家に転がっていたコミックだよ」

この精神は彼らがレコードをリリースしようと取り組んだときにも引き継がれた。現在は閉店しているが、ソーホーにあったVinyl Junkiesの常連だったToddは次のように語る。「最初のレコードを500枚プレスして、100枚くらいをロンドンに持って行ったんだ。50くらいはさばけるだろうと思っていた。ソーホーに行ってVinyl Junkiesに入って、店内をただぶらぶらしていた。どうしようかとずっと悶々していたんだ。それでついに言ったんだ。『あの、レコードがあるんですけど。俺は何度もここに来ていて』。そしたら店員がそのレコードを違うスピードで再生したんだ。『いや、33回転じゃなくて45回転です』って言ったよ。その人はレコードをかけっぱなしにしてたから、俺は店を出たんだ。いい返事がもらえるとはそんなに期待してなかった。でも10分くらい通りを歩いていたら、店から電話がかかってきたんだ。さっきの人が『何枚あるの？』って言ってきたから『100枚持ってきています』って答えた。そうしたら『何枚プレスしたの？』って聞かれて『500枚』って言ったら、『それ全部うちにちょうだい』って言われたんだ」

同レコードはそのインスピレーションとなったデトロイトのドンにも気に入られることになった。ToddはMoodymannに会いにマンチェスターに遠征したときのことを語ってくれた。「その当時、LuckyMeを運営しているDomとHudson Mohawkeと俺の3人で運転していったんだ。Moodymannに会いにね。俺はレコードを数枚持ってきていて、MoodymannがDJしているって知っていたから、彼のところまで行って、『これを渡そうと思っていたんです。今、渡します。それか後で送ります』って言ったんだ。そうしたらMoodymannは『おおー』って言って、かけていたレコードが何だったかは忘れたけど、それを止めて俺のレコードをかけてくれたんだ。満員のダンスフロアに向けてね。『みんな、こいつはエディンバラから来ていて、この曲はこいつの新曲だぞ』って言ってくれたよ。ヤバかったね。最高だったよ。それにMoodymannは気に入ったレコードがあると使い続けるタイプのDJなんだ」

当初からFirecrackerは親しみやすいアイテムを制作していた。マーベルコミックデザインの10インチ4枚はロンドン周辺のコレクターの間でちょっとした騒ぎになった。90年代のブーム以降ダンスシーンが崩壊している街エディンバラから生まれた作品であることなど問題ではなかった。このように低リスクで始めることで、Toddが「頑固であることと博打を打たないことの組み合わせ」だと説明する運営方針を展開していった。レーベルはルーマニアンハウスシーンの神秘主義者Vakulaや、謎の多いエストニアのBakey Ustlをゆっくりと彼らの輪の中に引き込んだ。Toddは次のように語る。「レーベルに少し弾みがついて、俺たちは何かをやんなきゃいけないって気がしてきたんだ」

“Miles Away”から、Furによる10インチ「Pulp」、そして、昨年のLnrdcroyによるヴァイナル2枚組『Much Less Normal』まで、メランコリックな路線、小刻みに震える瑞々しいパッド、そして、閉鎖的で感情的なダンスフロアの瞬間をレーベルは繋ぎ合わせていた。Toddは次のように語る。「俺は間違いなくメランコリックな魂を持っている。俺はそういう音楽にそそられるんだと思う。俺たちと一緒に何かをすることになった人の多くや、これまでの音楽の多くはすごくメランコリックだ。PanoramとかVakulaとかね」。レーベルはスコットランドやイギリス諸島で生まれる音楽だけをリリースしているわけではないが、Firecrackerの物憂げな性質にはスコットランド特有の何かがあるのかもしれない。

Toddは次のように語る。「スコットランド人には確実に内省的な性質がある。”自分に休みを与えない”っていうのもそうだね。”称賛をもらっていいところで、称賛をもらうことができない”っていう性格は過去のカルヴァン主義に深く根差しているんだと思う。冬はすごく夜が長くて、大量のウィスキーがある。確実にメランコリックでしょ。考えれば考えるほどそう思うよ。俺の知っている人が単に哀れな老いぼれなのかもしれないけど（笑）」

私がToddとSkypeで話をしたとき、The Living Mountainにある机の向こう側に座っていた彼には一部、影がかかっていた。The Living Mountainは獣医学校のカフェテリアだった場所の一角にある、丁寧に品ぞろえされた小さなレコード店だ。彼はスカイプ越しに店内と隣接するスクリーンプリントスタジオを案内してくれた。スタジオではAlという気立てのいい従業員がスウェーデンの3人組Frakのカバーを刷っている最中だった。その場所は、昔のフライヤーや今後Firecrackerからリリースされる作品用のデザイン案、レコード棚、そして、乾燥棚で埋め尽くされていた。Todd曰く「ごちゃごちゃしているところで働くのが好きなんだ」そうだ。

Firecrackerのアートワークはシーンの中でも極めて特徴的だ。Lord Of The Islesの10インチ「UNTHANK003」にはミドルアースの地図に似たスクリーンプリントが施され、「Mac-Talla Nan Creag」のスリーヴには星空を背景にレーザースキャンした古代ブロックが浮かんでいる。Toddの制作物はとても細かく独特であるため、真似をするのは実質不可能だ。Toddは次のように語る。「いつもごちゃごちゃしたものを詰め込んているだけだ。前にやったことを忘れてラベルデザインをすることもあるよ。『よし、オッケー。いいかんじ。前にも何かやっていたよな。おお、あれならいける。いいね。あれでいこう』って感じですごく衝動的なんだ。それがいいときもあれば、悪い時もある。俺は散らかしっぱなしにするからスタジオはゴミ溜めだよ。でも俺にとってはその方が追い詰められている気がして仕事をするにはいいんだ」

仕事らしくない仕事ぶりにもかかわらず、Firecrackerの運営は順調に進んでいる。Toddはその理由を金銭面の責任が発生したことだとしている。「引っ越しをするたびに、スタジオが大きくなっていて、運営費も増えている。結構やる気がなくて、少し夢見がちな性格だけど、破産というプレッシャーや恐怖は当然、俺を仕事に向かわせるよ」。レーベルのメインアクトであり、Toddにとって一番の親友であるLinkwoodものんびりしていてきっちりとすることに消極的だ。

ToddはLinkwoodの名前の由来もスコッチウィスキーだったと語る。「見渡したら、Linkwoodのボトルがスピーカーの上にあるんだ。俺とNickは音楽を作りながら、いつもLinkwoodを飲んでいたからね。スコッチウィスキーだよ。ホンモノの中のホンモノだ。必要不可欠で体の一部になっている」。初めて10インチをリリースして以降、LinkwoodはTrus MeのPrime Numbersから2009年にアルバムを、そして、FirecrackerのVakulaに焦点を当てたサブレーベルShevchenkoから12インチを発表し、その後、4年間スタジオに閉じこもった。オーク樽で少なくとも3年間は寝かさなければならないスコッチウィスキーは、Linkwoodの音楽に相応しいメタファーなのかもしれない。

いずれにせよ、4年後に結実したアルバム『Expressions』はレーベルの最高傑作であり、Firecrackerの主要路線ふたつを難なく融合している。つまりそれは知的なダンスフロアバンガーとビートレスのアナログサウンドだ。Toddは自分や仲間たちの行動が遅いことを認めている。しかし、彼はそれを大した問題だと思っていない。「新たなタイトルを出すことが最良の選択だとは思っていない。昔の音をリリースする方が今はいい。来月、数量限定で最初の4枚を再プレスするんだ。振り返ってみると、当時と同様、あの音が今に適していると感じられるんだ。俺自身もNickも、それに他のやつらもキャリアとか、そのために何かをしなきゃいけないとかっていうプレッシャーを感じてないんだ。キャリアとしてやってこられたのはありがたいけど、ペースを速めるためにクオリティを妥協したことは一度もないね。アルバムを作るのにこれだけ時間がかかっていたら、周りに誰もいなくなっちゃう」。そして、Toddはニヤリと笑い、ビジネスマンとしての一面をのぞかせた。「次のアルバムは2年で仕上げたいね」

Firecrackerの運営を全体的にみると手作り感と時代錯誤感がある。Toddはコンピューター無しでスリーヴデザインを行い、一方でレーベルのアーティストの多くはアナログシンセに引き寄せられている。Toddは次のように語る。「俺は知らず知らずのうちに伝統主義者になっているね。デジタルレーベルの運営なんて思いつきもしない。そんなのはちっとも興味をそそらないんだ。今あるようなグラフィックデザインにはそそられない。みんなは結局プリントアウトするだろ。Macで完ぺきにデザインしたものをプリントアウトしたり、本当に完ぺきにスクリーンプリントしたりする。そうすると『こんなことやる意味、はたしてあるのか？』ってなると思う。個人的にはスクリーンプリントにせよ、曲作りにせよ、解体してバラバラにすることが大事なんだ。どちらも結構プロセスは似ている。実験して、そこから何が出てくるのか試してみるのが大事ってことさ」

毎週末、ToddはThe Living Mountainを訪問者に開放している。土曜日は「みんながやって来て、コーヒーを飲んでレコードを聞く」日で、スクリーンプリントスタジオで何時間も孤独に過ごす日々において、人々と親睦を深めるひと時となっている。「商業用スペースで好き勝手に集めたレコードを聞くっていうのは実際よりもかなり神秘的に見えるよ」と彼は語る。

普段から自分を低く評価する態度の彼は、現代版ブロックとしての、つまり、現代社会の煩わしさから逃れる砦としての同店の地位を軽んじているのだろう。間接的にではあるが、Firecrackerを通じてToddはスコットランドの先人たちの伝統を重んじている。レーベル、店舗、小さなコミュニティを築くことで、ウィスキーを飲み、友人と共に音楽を楽しむというシンプルな慣例を彼は祝福しているのだ。

Firecracker Recordings LOTM mix
過去、現在、そして、未来のFirecrackerのトラック12曲をミックス。スコッチウィスキーを注いで、じっくりと浸ってみてほしい。

Download: mix

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Filesize: 178.4 MB
Length: 01:14:19

Lord Of The Isles - Tocpe 28 (Unthank forthcoming)
Les Gracies - Pan (Firecracker forthcoming)
Les Gracies - Compoly (Firecracker forthcoming)
Linkwood - Hear The Sun (Firecracker)
Wounded Knee - Invocation - from Mac-Talla Nan Creag (Firecracker)
Denaji - Wuhti (Unthank)
Denaji - Wuhti - DJ Sotofett's Bhakti Crew Mix Feat. Paleo Logos (Unthank)
HOLOVR - Drift Portal (Forthcoming Firecracker)
Linkwood - Outside In (Firecracker)
Linkwood Family - Miles Away (Firecracker)
Other Lands - Grugaigian Chant - from Mac-Talla Nan Creag (Firecracker)
Various - Grugaig Perc - from Mac-Talla Nan Creag (Firecracker)