Karennほど生々しくテクノを奏でるアーティストはいないだろう。しかし、ロックスターが器用に寝癖のようなヘアスタイルを生み出すように、彼らの荒々しいサウンドも丁寧な取り組みとそれ相応のスキルによって生み出されている。Arthur Cayzer（Pariah）とJamie Roberts（Blawan）はそれぞれソロとして高い評価を得ているプロデューサーで、Karennとして活動を始める以前は2010年頃に数多く見られたベースミュージックの変異体とも言える作品で園名が知られていたが、Karennではその音楽性を変えた他、ワークフローも変えている。現在2人はかつてのソフトウェアベースではなく、ハードウェアだけを使ったラフなスタイルで制作を進めており、ソフトウェアからは完全に離れている。

Karennはエレクトロニック系の制作スタジオを丸ごとライブに持ち込んでおり、彼らを他とは一線を画した存在に押し上げているのは、Works The Long Nightsから数枚のEPのリリースもあるにせよ、そのセットアップから繰り出されるライブだ。というわけで、今回はスタジオを訪問する代わりに、今年のLondon Electronic Music Eventでプレイした彼らの元を訪れ、観客を前にそのセットアップの説明を行ってもらった。Karennにとってハードウェアベースのセットアップは制約のあるエクササイズである。ライブセットを披露してもらった後に、どういう流れでプレイしたのか、またその手順について教えてもらった。

今回のライブをどのようにプレイしていたのか解説してください。

Blawan: 上手く説明できないな。俺とArthurは一緒にプレイしているけど、作業は別々だからね。俺はこのモジュラーシンセを使っていて、Arthurは向こう側で別の機材を担当している。何か問題があったり、ライドを入れようと思ったりした時はコミュニケーションを取るけれど、基本的には全く違うふたつのセットアップを使っている。向こうにあるのがArthurのセットアップで、こっちが俺のセットアップだ。俺のはArthurのよりももう少しコンパクトだね。基本的にはお互いにサウンドを出し合って、そのサウンドで出来る限りコミュニケーションを取ろうとしている。でも実はそこまでコミュニケーションを取ってないんだ。

そこを不思議に思っていました。あなたたちはお互いに自分の世界に入っているように見えましたが、サウンド自体は非常に上手く絡み合っていましたから。

Pariah: 練習の成果だと思うよ。

Blawan: 確かに練習の成果だな。このライブセットはお互いが特にコミュニケーションを取らなくて良い状態にするために1年、いや1年半位かけた結果なんだ。俺はArthurが好き勝手プレイしても何の問題も感じないし、ArthurはArthurで俺が何をしているかをしっかりと理解している。お互いに何かミスがあればそれは言うけどさ。お互いを信用しているんだ。

ではライブは基本的にインプロということになりますか？

Pariah: 機材がすべて準備出来ている状態になったら、ちょっとしたイントロを3、4分位プレイして、それからは完全にインプロだね。インプロの方が上手くいく。

Blawan: インプロの方が上手くいくな。ところどころ怪しいというか、ダメな部分もあるけど、インプロの良い点は、すべて上手く変化していって、自然にすべてが組み合わさるポイントが生み出せるところにある。事前にプログラムして、最初からどうなるか分かっているのではなく、どちらかというとシンプルな結果なんだ。俺たちはミスから学ぶし、ミスは別に悪いことじゃない。だからインプロは俺たちのライブのカギと言えるな。

あなたたちの言う「準備」は、どう始めるかを決める作業のように思えますが、実際はどうやって決めているのでしょうか？

Pariah: 上手く言えないな。ここにルーパーがあるけど、これを使ってイントロを生み出す。大抵の場合はちょっとおどろおどろしい雰囲気のサウンドからスタートする。それからJamieがモジュラーでサウンドを出力する。それから後は基本的には何をやっても構わない。セーブしてあるシーケンスデータやパターンを好きなタイミングで呼び出しても、別に決まったトラックをプレイする訳じゃない。時々ライブの後に「あのトラックは何？」と訊かれたりするけれど、「あのライブだけのものだ」としか言えない。

Blawan: モジュラーにセーブしてあるシーケンスデータがいくつかある。それとTempest（Deve Smith Instruments）を基本に展開していく。Tempestがなかったらちょっと困るだろうな。俺とArthurはプレイに集中しているから、全体がどうなっているのかを把握するのが難しい時がある。だからシンプルなドラムビートがあると助かるんだ。他にも色々鳴っているしね。2人だけで大量の機材をインプロで操作しているから、ソリッドなサウンドにまとめるまで20分位はかかるからさ。

かなり高密度なサウンドですよね。

Blawan: ああ、俺たちのサウンドは高密度だね。実は最近そこを今解消しようとしているんだ。このセットアップは別に完ぺきなものじゃない。俺たちはずっと勉強を続けていて、ギグで得たギャラをセットアップにつぎ込んでいる。ここ2年で色々蓄積されてきて、ハードワークだったけど、時間と共に各機材が理解できるようになってきた。それで君が言うように、サウンドが高密度だってことに気がついた。音数が多すぎるから、とにかく減らせるだけ減らそうとしているんだ。何故ならクラブで110 dBが出ている状態では909のハット一発が強力なパンチみたいに感じられる時がある。だから注意が必要なのさ。

Pariah: 俺たちは色々変化を加えながら、セットアップを完全に新しくしようと努力している。今はその途中段階と言えるかな。今年の頭にプレイしたギグで、アプローチを少し変えたんだ。まだ完成ではないけれど、目指しているところに近づいていると思う。まだドラムが多過ぎると感じているから、減らそうとしているのさ。例えばここに909がある。これは素晴らしい機材だけど、基本的にライドとクラップ、ハットしか使っていない。しかもこの大きさをいちいち持ち歩くのはちょっと馬鹿げているなとも思う。だけど、本当に素晴らしいトリガーアウトが付いているから、モジュラーのキックの同期には最適なんだ。だから必要ではあるけど、ライブでは使っていないに等しいね。

909の存在はこちらでも確認していました。確かに素晴らしいヴィンテージだと思います。しかし、セットアップの大半は新しい機材ですよね。どういう観点から機材を選んでいるのでしょう？

Blawan: 元々俺たち2人の機材は少なかった。2人で金を出し合って400ポンドのシーケンサーを買った位さ。当時はひとりで機材を買えるような余裕がなかった。それで徐々にライブで金を稼げるようになってくると、どんどん機材に金をつぎ込んでいったんだ。最初に買ったのは2台のTempestだね。当時はこの2台で十分だったから、ツアーもこの2台だけだったし、それで問題なかった。Tempestはドラムマシン以上のことが出来るし、シンセとしても使える。とにかく最初はTempestから始まって、それから少しずつ買い足していったのさ。

小さなシンセの大半はArthurが買い集めた。その代わり俺はモジュラーにのめり込んでいったんだ。モジュラーシンセは本当に複雑だし、手に入れるのも難しい。優れたドラムマシンだけど、実際その可能性は無限大だ。途方に暮れながらも俺は我慢強く使い続けている。いつの日か完ぺきなセットアップを生み出せればと思っているよ。ちょっと話が元に戻るけど、Tempestを買ったあとは、Dominoのような小さなシンセ、そして全く使い物にならなかったMoog Slim Phattyなんかを試していった。その後は思い出せないけど、909が転機になったな。手に入れた時は使いまくったね。メインで使ってたよな？

Pariah: ライブを始めた頃は、何をプレイするかをあらかじめ決めていた。トラックを作っておいて、「これの次はこれ」という形でプレイしていたんだ。OctatrackとTempestがあれば、異なったトラックに素材を分けておけるからね。でも5、6回ライブを終えた後、DJのような自由さがないってことに気がついた。何かミスがあっても、そこに手を加えられなかったし、凄く制限されているように感じたんだ。

上手く行かなかったライブや、思っていたように出来なかった時は凄くストレスに感じた。それで909を買うことにしたのさ。素早くパターンがエディットできるし、リアルタイムでプログラムが組めるからね。Tempestでもできるけど、909ほど簡単じゃなかった。だから909を買った後、あらかじめ準備するのをやめたのさ。すべてを準備していた状態から、何も準備しない状態でライブに臨むようになった。

Blawan: 909はライブで16ステップのシーケンスを組める余裕を与えてくれた。本当に簡単にJeff Millsのようなパターンが組めるし、何も心配しなくていいのさ。

あなたたちが使っている909にはJeff Millsのサインがしてありますよね。

Pariah: 言っておくけど、買った時にサインがしてあったんだよ！

Blawan: ArthurはJeff Millsのサイン入りだから買ったわけじゃない。買ったら偶然Jeff Millsのサインが書いてあったのさ。

909の話を聞いて思ったのは、機材はサウンドだけではなく、使い方というか、ライブにおける機能性も考慮して選んでいるようですね。

Blawan: 正直言うと、サウンドはそこまで大事じゃないんだ。機能性の方が重要だね。ライブで機能しない機材、使い方が難しい機材は使わない。なぜなら他に複雑な機材を扱っているからね。だからTempestをベースにセットアップを組んでいるんだ。Tempestはライブ用のドラムマシンとしては最高だ。予算に余裕がある人はすぐに買った方が良いよ。セットアップが完全に変わると思う。でもパッドが沢山光っている状態で色々変化させるのは楽じゃない。それに加え4台のシンセ、ミキサー、EQなど色々考えなければならない部分があるからさ。しかもフロアの状況も見なければならないから、トゥーマッチになってしまう。あくまでTempestはベースとして使っている。他の機材は機能性だけで選んでいるけどさ。

でも、モジュラーの機能性はゼロだ。ライブで俺がイライラしている様子を見たことがある人もいると思う。でも俺はこれを辛抱強く使っていくつもりさ。なぜなら、本当に素晴らしいサウンドが生まれる時が多いからね。こういうシンセは既成品では売ってない。可能性は無限大なんだ。だから機能性がある、ないを問わず、俺はずっと続けていくよ。新しいモジュールを足して、新しいシーケンスを組んでいくのさ。

日本製のハンドメイドシーケンサー、Orthogonal Devices ER-101を買ったけど、これは本当に無限に変化させられる。小節の概念がないし、ゲートの長さ、小節の長さ、パターンの長さなど、すべてのパラメーターを自分で打ち込まなければならない。凄く複雑だけど、モジュラーとしては非常に優れているから使っている。見た目は小さな計算機みたいだけど。計算機の画面を見ながらメロディーを打ち込むようなものさ。凄く難しいけど、可能性が無限だから、辛抱強く使っている。

今回使ったオシレーターはBraidsのオシレーターで、これはMutable Instrumentsという素晴らしいモジュールを生み出しているブランドのデジタルオシレーターだ。以前はアナログVCOを使ってたけど、クラブの熱と汗で不具合が起きて、少女が叫んでいるようなサウンドが出続けるようなアクシデントに見舞われたことがあって以来、デジタルオシレーターを使っているんだ。Braidsの他には、Synthesis TechnologyのMorphing Terrariumも使っている。これは素晴らしいウェーブテーブルシンセだね。256のウェーブテーブルが用意されているし、すべてのウェーブテーブルがスムースに変化する。

Arthur、あなたはモジュラーシンセを試したことは？

Pariah: ないよ。難しすぎる！

Blawan: 俺にとっては趣味みたいなものなのさ。でもモジュラーを手に入れてから俺のセットアップはガラリと変わった。ソロ名義の作品も変わったね。俺は自分のスタジオをエフェクトとEQ、それにモジュラーシンセだけにしようとしていて、モジュラーだけでトラックを作ろうとしているんだ。スタジオでこれをいじりながらマルチトラックかステレオで数時間レコーディングすれば、コンピューターでエディットする段階で大量の素材が揃ってるってわけさ。

スタジオとライブで使う機材はどの程度一緒なのでしょう？

Pariah: 場合によりけりだね。お互いのソロの時はコンピューターとハードウェアを併用している。俺のトラックの大半はコンピューターだよ。実は最近Karennでもコンピューターでアレンジとミックスダウンを試してみた。

Blawan: でも間違いだったよな。

Pariah: ああ、最悪だったね。だから今はライブレコーディングをしている。マルチトラックでレコーディングして、あとでミックスダウンできるようにしているんだ。ダブルパックの[Sheworks 004]も全トラックをライブレコーディングしたけど、あの時はステレオレコーディングだった。

Blawan: あえてそうした部分もあるけどな。コンプがかかりすぎた、ざらついた汚いサウンドが欲しかったんだ。Karennのトラックを制作する時は、色々なセットアップを試す。でも最近レコーディングした2曲はTempestとモジュラーだけだった。実際必要なのはその位なんだ。ここには色々な機材を置いてあるけれど、それはライブの時に幅を持たせたいからだ。1時間から1時間半のライブだったら、そのふたつだけじゃ退屈だろう？　でも、さっきも言った通り、909は不必要だと感じている。909のサウンドは確かに素晴らしいけれど、個人的には1時間も909のサウンドを聴いていたくはないからね。ライドは1時間鳴っていても構わないけどさ…。

先ほどコンピューターをセットアップに持ち込んだのは失敗だったと言っていましたが、コンピューターがないセットアップはKarennの特徴のひとつでもあります。コンピューターの代役を果たしている機材はどれですか？

Pariah: 多分 Tempestだね。Tempestは16種類のビートを自由に切り替えられるし、そのひとつのパターンの中に16個、最大32個のサウンドを入れられる。Tempestならどんなサウンドでも生み出せるよ。最高だ。

Blawan: 俺たちがTempestの回し者みたいに思えるかも知れないけど、別に金を受け取ってる訳じゃないぜ！　あっちがタダでくれるっていうなら有難く頂戴するけどさ（笑）。Tempestは本質的にはコンピューターだ。だからこれをベースにしてセットアップを組んでいる。これでシーケンスを組んでいる訳じゃないけどね。

Pariah: ベースラインはTempestで鳴らしてる。その場でプレイしたくないような時のためにシンセパッドのフレーズもTempestの中にいくつかセーブしてあるし、勢いを与えるためのパーカッションも入れてある。Jamieが言った通り、セットアップのベースにするには最適な機材だと思うね。これをベースにすれば他が色々いじれるからさ。

ではシーケンサーの代役ということになりますか？　Octatrackもありますが、こちらはあまり使っていないのでしょうか？

Pariah: （Octatrackをミキサーから鳴らして）これはこのノイズを出すのに使っているだけだ。これも素晴らしい機材だね。でも8チャンネルまたは8トラックが用意されているのに対し、アウトプットはステレオだけだ。だからきちんとバランスを取った形で出力しなければならない。でも他の機材があるから調整する余裕がないんだ。だから確かにこういう素晴らしいサウンドが得られるけど、あと1カ月もすれば使わなくなるだろうな。Octatrackはクロックとして使っていた。MIDIを他の機材に送って、すべての機材が同期するようにしていたのさ。最近その代わりにOctatrackの1/5位のサイズの新しい機材を買ったよ。

セットアップのセンターに位置しているのがミキサーですが、どのように使っているのでしょう？

Pariah: センターに置いてあるものの、そこまで重要じゃないんだ。なぜなら、サウンドチェックの段階でバランスを取っちゃうからね。ミキサーのEQをもう少し活用すべきかもしれないけど、いずれにせよサウンドチェックの段階ですべて終わらせてしまうから。

Blawan: 本番ではもうミックスバランスが取れているし、実際いじるのもキックやベースなど、重要なパーツのチャンネルのバランス位だ。アトモスフェリックなシンセのヴォリュームやEQもその機材の中で調整しているから、ミキサーでいじることはあまりない。しかも、俺たちは特にミキサー担当を決めてないし。1人が機材で1人がミキサーを担当するというのはよくあるパターンだし、多くのライブアクトがそういう役割分担をしているけど、俺たちはそうじゃない。

Pariah: Livity Soundなんかがそうだよね。彼らは３人だけど、そのうち１人がミキサーを担当している。その理由は彼らが大量のエフェクターをミキサーにつないでいるからだけど、俺たちはそういうセットアップじゃないから。

EQはミキサーではなく個々の機材で調整しているのですね。

Blawan: EQは特別な設定をしていないし、各チャンネルのEQはメインミックスに合わせるように直感的に調整しているだけさ。でもサウンドチェックの時間がある時は、各チャンネルのEQをしっかり調整するね。たとえば、キックとベース以外、たまにキックもそうする時があるけど、80Hz以下をカットして低域を削るようにしている。ハイハットのようなちょっとしたサウンドでさえも、サウンドシステムを通せば低域が強調されるからカットしてる。スタジオのようにすべてのサウンドがちゃんと鳴るように調整するのには結構時間がかかったな。

Pariah: 低域に関しては、俺たちはキックをベースとして使っていたんだけど、ライブを始めた頃に「クラブだと結構激しいリズムに聴こえるけど、いわゆるサブベース的な部分が抜けている」と言われたことがあってさ。轟音っぽいフィーリングが欠けてるってね。

Blawan: 実際鳴ってはいたんだけどな。でもスタジオと同じで、各サウンドにちゃんとスペースを与えなければならなかった。当時の俺たちは各機材の周波数が広過ぎたんだ。

Pariah: だから今はベースラインとキックのチャンネルは分けている。

Blawan: そうすることで各サウンドを分離できた。初心者の発言に聞こえるかも知れないけど、当時は勘だけでやってたのさ。

多くのアーティストがスタジオで同様の問題を抱えてきたと思います。キックを鳴らしても、どうして自分が聴いているレコードのような音で鳴らないのかと。

Blawan: サウンドのレイヤーがカギだね。俺とArthurのトラックでは、2個か3個キックを重ねる時がある。ライブで「何でパワーが足りないんだ？」と感じる原因は、低域が不足していたからだった。今のセットアップになるまでそこが解消できていなかった。今は100Hz以下のサウンドはすべてオーバードライブしてあるから、変な隙間がないし、ダイナミックレンジも圧縮されている。基本的に常に轟音が鳴るようになっているんだ。多くのマスタリングエンジニアはただ低域にコンプレッサーをかけるだけだけど、俺たちはコンプレッサーを使わずにこういうやり方で音圧を稼いでいるんだ。

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Jamie、あなたは他のインタビューで、「スタジオをそのままライブに持ち込んでプレイするテクノのライブアクトは以前からいたし、自分たちが最初ではない」と言っていましたが、あなたたちのスタイルに影響を与えたライブアクトは誰なのでしょう？

Blawan: 直接影響を受けた訳じゃないけど、面白いなと思ったのはOctave Oneだな。ハードウェアだけの素晴らしいライブセットだった。どうやってライブをやっているのか知らないし、全部がインプロなのかもわからないけど、確実にインプロのパートがあった。でも一番面白いなと思ったのは、The Analogue Copsだ。4年半前から一緒に制作をしているけど、やり方は全く一緒さ。奴らはハードウェアだけでテープに録音している。Betamaxにレコーディングしていた時もあった。

良いサチュレーションを得たいと思っているなら、Betamaxが一番安いし、クオリティも最高だ。本当に素晴らしいし、たしか上書き録音も可能だったはずだ。本当に素晴らしいサウンドさ。

The Analogue Copsと制作をスタートさせた時は、ハードウェアだけだった。ベルリンで1日10曲位仕上げていたね。30分位で1曲仕上がっていた。ダメなトラックもあったけど、素晴らしいトラックも出来た。

1週間で4、5日スタジオのコンピューターの前にいるのはストレスが溜まる。昔はAbletonを使っていて、まぁ今も使っているけど、当時行き詰まりを感じたんだ。だから、インスピレーションも得られなかった自分にとって、The Analogue CopsのDomとMarieuは凄く刺激的だった。音楽は別に完ぺきじゃなくても良いというか。ドラムンベースの奴らみたいに「最高のミックスダウンだな！」とか言わなくていいのさ。ドラムンベースのプロデューサーたちはミックスダウンのクオリティにこだわりすぎていて、クリーンでパーフェクトなミックスダウンじゃダメだと思っている。でもそうじゃない。そのサウンドでどう感じるかだ。The Analogue Copsと一緒にスタジオに入っていなければ、自分のサウンドを表現できなかったと思う。奴らの方法は別に目新しくも何でもないけど、俺にとっては今までとは完全に異なる音楽の制作方法だった。

だから俺たちにとって、The Analogue Copsは凄く刺激的だった。Karennを始めたのは彼らの影響があったからだと言ってもいい位さ。インプロのライブで心配する必要はないってことを教えてくれた。今日のライブについて言わせてもらえば、前半は酷かったし、良い内容じゃなかった。だから今日はストレスを感じていたよ。完ぺきじゃなかったからさ。でもそれでいいんだ。別に問題ない。本当に酷くても、たとえこの場にいる全員が酷いと思う内容だったとしても、どうでもいいというか。何故なら自分がやりたいことを1時間やれた訳で、それが一番大事だからさ。俺たちは完ぺきを求めている訳じゃない。俺たちは荒々しくて汚れたサウンドを求めている訳だから。個人的にはそういう部分が音楽をスペシャルなものにすると思っているし。

以前あなたがAbletonの話をした際、Abletonのようなソフトは無限の可能性がある故に問題があると指摘していました。Karennの制限のあるセットアップは、ソフトウェアでの作業では不可能だったクリエイティビティを生み出しているのではないですか？

Pariah: その通りだね。最初のレコードは、コンピューターだけで作った。あれはライブをやろうと決める前の作品だったのさ。それまでの俺たちはソロ名義ではDJをしていた。ライブをやろうと思った理由のひとつは、ソロとは違う何かをやりたかったからなんだ。それぞれDJをやっているのに、2人でDJをやってもあまり意味がないと思っていたからね。その後ライブをやるようになると、今度は「ライブの感覚をスタジオに持ち込んで制作してみよう」と思った。それでダブルパックを制作したのさ。制作期間は1カ月位だったかな？

Blawan: それよりも短かったな。

Pariah: 1日で2、3曲仕上げた時もあったね。

Blawan: 人によってはコンピューターでもその位のペースで作れるけど、俺たちには無理だ。

Pariah: 俺は無理だね。数ヶ月かかる。

Blawan: 俺とArthurは制作スピードが凄く遅い。そういうリズムにハマっちゃうというかさ。グズグズして、その後は粗探ししてしまう。でも今の方法ではそういう厄介な感じがないのが重要さ。制限はないけれど、自分の限界を理解していて、その限度の中で作業すれば、スピードは速くなる。でもコンピューターでは何でも可能なんだ。

今はどのように制作を進めていますか？

Pariah: 今はJamieがアウトボードやEQなどを揃えてあるから、Jamieの家へ行く。それでTempestを立ち上げて…。

Blawan: あとはRecボタンを押すだけさ。今日のライブと同じ感覚で制作していくんだ。俺とArthurは2時間位ボタンを押しまくって…。

Pariah: ノイズを生み出す。

Blawan: それがひとつにまとまっていく。この方法では常に何かしらがひとつにまとまっていく。何も良いものが生まれなかったと落胆する時もあるけど、素晴らしいものが生まれる時もある。時間がかかるし、我慢するのが重要だ。コンピューターでの制作とは全くの別物さ。コンピューターの場合は生まれた結果は良くないし、ストレスが溜まることも多い。多くの人は俺みたいな問題を抱えていないと思うけどね。

今はセットアップをコンパクトにしようとしていると言っていましたが、他にも何か変化を加えている部分はありますか？

Pariah: 常に変化しているよ。「これだ！」と思える時なんてこないと思う。始めた時から常に変化しているし、色々学ぶことがある。まだまだ最初の段階なのさ。

Blawan: 本当にまだまだ最初の段階だ。機材を色々入れ替える必要がある。たとえばここにxOxbOxがある。これは303のクローンで303のようなサウンドが鳴るけど、それだけだ。もしこれを入れ替えなければ、永遠に俺らのライブにはアシッドサウンドが組み込まれることになる。

Pariah: 今は俺のシンセのシーケンサーとして使っているけどね。

Blawan: xOxbOxはシンセとしてよりもシーケンサーとしての機能の方が優れているからさ。同じサウンドを使って、俺たちが同じ制限の中で制作を続けていくアーティストなら、ずっとこういう機材を使っていくけど、俺たちはそうじゃない。常に新しいサウンドを探しているし、何が機能的なのかを探っている。それで、今はどうやってコンパクトにするかに取り組んでいるんだ。今のセットアップは見た目もクールだし、色々動きがあるように見えるけど、俺たちはなるべくコンパクトにまとめたい。何を言っているんだと思うかも知れないけど、本当さ。今はミキサーで20チャンネル位使っているけど、ライブとしてはかなり多い。だから今は心配しないで、素早く簡単にライブができる方法を探っているのさ。そうすればライブ前に余計な心配をしなくて済むし。

今は大きなフェスティバルでプレイする時が多いから、何千人もの観客を前にしてプレイする。でもサウンドチェックができない。数週間前にベルギーでプレイしたけど、俺たちの前はRobert HoodがDJをしていた。その時にArthurのシーケンサーが故障してしまって、代わりのシーケンサーもなかった。だからOctatrackで急いでシーケンスを組まなければならなかった。こういう状況にならないようにしたい。なるべくコンパクトにして、安定したシーケンサーとシンセを使って、毎回ちゃんとプレイできる状態にしたい。でもまだその段階には達していない。

ハードウェアを常に使っていると、次から次へ機材が欲しくなるのでははないですか？

Pariah: 俺は別にそうじゃないんだよな。でも先日Shruthiを買ったよ。これは素晴らしい機材だね。120ポンド位だった。サウンド的には面白くないんだけどね…。

Blawan: Shruthiはアナログフィルター付きのデジタルシンセってところだよな。モジュラーでも同じようなサウンドが出せる。俺のモジュラーもオシレーターがデジタルだからさ。でも…　あれ？　何を言おうとしてたんだっけ？

Everybody: （笑）

Blawan: ごめん。言いたいことが色々頭に浮かんだからさ。あ、俺たちが欲しいと思ってる機材？　欲しいと思っている機材は今のところ全部揃ってるな。なぜなら俺たちのライブに合うかもと思う機材は全部買ってるからさ。個人的な話だと、何百と試したいモジュールがある。

（Pariahを見て）Jamieにはちゃんと休むように言わないといけませんね。

Blawan: マジで日光が必要だ。肌も青白いしさ。この生活の欠点のひとつだね。

実は、今日のインタビューについて、ちょっとみんなには悪いなと思っているんだ。確かにプレイ方法について話をしたし、技術的な部分について話すのは大好きだ。でも俺たち2人は別にエキスパートじゃないからさ。俺たちの学習方法は…

Pariah: 探り探りだからね。

Blawan: 言っちゃえば、超マニアックな部分に自分たちを放り込んだら、たまたま上手くいったってだけの話さ。だから俺たちのようなライブや制作をしようと思っている人がいるなら、心配しなくていい。挑戦してみて、そこに入り込んでみれば、最高の作品が生まれる。上手くいかなかったらそれはそれだし。誰も文句は言わない。ただの音楽なんだからさ。