「アウトサイダーハウスって馬鹿げた言葉だな。良くも悪くも俺達はそういった音楽とは違うことをやっていると思うけどな。」

「そうだな。その言葉は引き合いに出さないようにしよう。」

テクノ・ハウスがバブル真っ只中の盛り上がりを見せるブルックリン。Fifth Wall RecordsのReillyとNicoはその街で生活している。ここ最近、レフトフィールドなハウス・テクノの周辺の音楽が活況に沸いている。その音楽はしばしば「アウトサイダー」と呼ばれているが、東海岸に居を構える2人はそことは違う場所からインスピレーションを得ている。Fifth Wallからリリースされるインダストリアル感のあるクラブ仕様のトラックはアメリカ内だけでなく大西洋を横断しヨーロッパで制作された音楽であることも多く、レーベルに対し、そうしたサウンドを求める声が日に日に高まってきている。ニューヨークで生まれる多くの音楽に比べて、Fifth Wallのサウンドは従来のサウンドやスタイルに沿ったものが多く、往々にして朝の4時にプレイされるような内容になっており、ヨーロッパで人気が高まっているテクノのスタイルを踏襲している。特にイギリスを拠点とするプロデューサーのそれに近いが、アメリカならではの質感もそこには加えられている。

このレーベルがスタートしたのはNicoによる12インチをリリースした2月まで遡る (レーベルボスの2人共に苗字を公にはしていない)。「Case (Nabis)」はHound Scale名義での初リリースとなった作品だが、どういった音楽をやろうとしているのかハッキリと分かるものであった。堅実にスウィングするリズムや揺れ動くサンプルがR&Bのボーカルと分厚いベースラインに組み合わされたそのサウンドは、イギリスのベース・テクノミュージックにおけるヘヴィなトラックを想起させるものだった。ミニマルとは対極のマキシマルなアプローチながらも、各トラックはダンスフロアにしっかりとアピールするもので、そこには明らかにグルーヴにフォーカスしている姿勢が見受けられた。ファンキーかつバウンシーなテクノ、しかし同時にその荒々しい一面の中にも家に居るかのように感じさせるものがある。同様のことがFifth Wallの2枚目のリリースReilly「Used Experience EP」にも当てはまる。Divvoceの名の下に制作されたシンプルかつループを基調としたこの作品はピークタイムのダンスフロアに狙いを定めたものであった。

Fifth Wallのディスコグラフィは現在、12インチが述べ9枚に渡る。内2枚以上がReillyとNicoによるもので、イギリスのCloudsやUnkloneやアイルランドのMylerらによって提供された作品も見受けることが出来る。こうしたインターナショナルな楽曲提供は昔ながらのレーベル運営によるものだ。現行のトレンドに沿った密度の高い感情を逆撫でするかのようなサウンドを展開しているが、このことを可能にしているのはFifth Wallからリリースした最初の2枚による成功に拠るところが大きい。今年、最も飛躍したテクノアーティストの1人であるCloudsはFifth Wallの初期リリースに感銘を受け、レーベルのプロモリストに自分達を加えて欲しいとメールをしている。そのことがきっかけとなり、スコットランドに住むCloudsとReillyとNicoの関係が始まり、その後、彼らの新作リリースへと話が発展、「Man Out Of Dubs EP」としてリリースすることになったのだった。「何でみんな俺達に曲を送ってくるんだ？」とReillyは話す。「俺達は何者だ？有名人か？何者でもないだろ。でもそういう感じで他のリリースも決まっていったんだ。」

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オリジナル楽曲をリリースしてきたアーティストの内、ReillyとNicoが実際に会ったことがあるのはMatrixxmanとPhysical Therapyの2組だけだ。レーベルを始めて間もない頃は、彼らが求めるサウンドを見つけるためにはアメリカ以外の場所で探す必要があった。YouTubeをマイナーなハウスとテクノに特化したようなウェブサイトhurfydを通じて発見したアーティストをReillyとNicoの2人はSoundCloud上で検索していたという。「まるで、才能のあるプロデューサーのネットワークが張り巡らされているかのよう」と語るのはReilly。「SoundCloudでアーテイストを探していて、誰が誰をフォローして、逆にフォローされているのかを見ていたんだ。俺達がやったのはただソーシャルメディアをあちこち行ったり来たりしただけだよ。」

「俺達が最初にコンタクトを取っていたのはみんな、イギリスの人ばかりだった」とNicoは話す。「イギリスは、こういった音楽に対する土壌がしっかりしているから、彼らの音楽に対するテイストも若いうちから磨かれている。俺達がリリースしたイギリスのプロデューサーはみんな20歳前後だと思うよ。」

「アメリカのヤツらはみんな30代に突入してるぜ」とReillyが付け加える。

Fifth Wallのアーティストの中で2人以外にアメリカ人なのはMatrixxmannやPhysical Therapyだ。彼らはレーベル初期のカタログが持つ荒々しさからこぼれ出てきたような音楽を作り上げている。ドラム主体のトラックと初期ハウスミュージックのような空気、そこに眩暈を起こしそうになるシンセが折り重なっていくEP、Matrixxmann「The XX Files」。一緒に収録されたMylerによるリミックスは骨が砕けそうになるほどに強烈な仕上がりで、こちらはレーベル従来のイメージに沿ってはいるものの、Matrixxmannによるオリジナル作品はFifth Wallにおいて最も強烈に記憶に残る1枚だと言えるだろう。Matrixxmannはこの作品をベースに更なる展開を見せようとしている。Physical Therapyによる「Yes, I'm Elastic」はクラシックなテクノに対する変化球トラックとなっている。Fifth Wallがそれまでにリリースしてきた作品の大半がウェアハウスでプレイされるような激しいサウンドであったのに対し、この作品における僅かにシンコペートするリズムとからかったようなボーカル使いは、そうした激しさからある程度、距離を置いている。

NicoとReillyはUKサウンドのファンでもある。Nicoは10代の頃、ロンドンのNewham GeneralsのミックステープやDizzee Rascal『Boy In Da Corner』を購入し、それをきっかけにエレクトロニックミュージックへの興味を深めていったことを詳しく語ってくれた。「インストもののグライムをきっかけにガラージやジャングル、その他の音楽を聞くようになった」と彼は説明する。「もしイギリスが無かったら、今、何を聞いてるのか分からないな。でも絶対にテクノは聴いていないと思う。」

2人はサンフランシスコでの乳がんチャリティコンサートで出会った。郊外育ちで当時、ちょうど音楽を作り始めたばかりのときだ。当初、Reillyは様々なハウスやベースミュージックを制作し、Top BillinやHot N Heavyといったレーベルからリリースしており、一方、Nicoはグライムのビートに手を伸ばそうとしていた。2人共に1つのことを長く続けられず、色々なスタイルを試していたが、その後テクノに方向性が落ち着いた。「1つのジャンルにハマるようなことはないな」とサンフランシスコについて語るNico。「『俺達テクノが好きなんだ』って言うようなヤツは1人もいないし、その時々で人気があるものをみんな聴いている。」

Fifth Wallの設立にあたり、ReillyとNicoはアメリカで過小評価されている音楽をリリースする場所を作ることを目的としていた。ウェアハウステクノのサウンドはヨーロッパ中で流行っていたが、自国ではレーベルからのサポートはおろかDJさえもほとんど居ない状態だった。彼らは当時パーティーでかかっていた音楽に対し不満を募らせ、何故、自分たちの好みに合った音楽を作るアメリカ人が居ないのかと思いをめぐらせていた。「俺達がクラブで会ってたときはいつも『何てクソみたいな音楽なんだ』って言い合ってたよ」とNicoが笑う。「しょっちゅう『こいつら何を考えてるんだ。アメリカ人はどうしてこうもダサいんだ』って言ってた。」

「俺らが好きな音楽のほとんどはイギリスやドイツ。アメリカでは無い場所で生まれていた」とReillyが続ける。「でも、そうした音楽をサポートするレーベルがアメリカのどこにあるか？当時は存在していなかったんだ。」

ReillyとNicoはニューヨークに引越しをするタイミングで一切の音楽トレンドの影響から抜け出している。ニューヨークではハウスやテクノが成熟期を迎えている。 L.I.E.SやMister Saturday Nightといったレーベルや多くの新しいプロデューサーらが評価を獲得したことによって支えされている。「ニューヨークに越してきてからというもの、ハウスやテクノのシーンは急激に成長している」と話すのはReillyだ。「最初、この街に来た頃、ほとんどのハウスやテクノのパーティーはもっと大々的なものばかりだった。Blk|Market MembershipやResoluteみたいなパーティーだ。でも今はかなり規模が小さくなって、Bossa Nova Civic Clubみたいな場所で不定期に開催するようなものになってきている。」

「ニューヨークに引越してレコードレーベルを始めようって決めた。ニューヨークというシーンが行き過ぎた状態になる前にね」とReilly。

2人はニューヨークへの移住についてしばらく話し合いを重ねていた。音楽とは全く関係なく、別々にニューヨークに住もうと計画をしていたこともあったが、Nicoが専門学校を卒業してから、結局、一緒に引越しをすることに決まった。そんな彼らは今ではFifth Wallを運営している。彼らがシェアするブルックリンのアパートの一室でだ。彼らは躊躇ってはいるものの、ニューヨークを拠点とすることでアメリカの他の場所よりも多くの戦略的な利点があることを認めている。しかし、彼らは、大きなシーンのそばに居るということは音楽的に同じようなことを考えている人と出会うことが多くなる、とも話している。「もしロンドンやベルリンに住んでいたら、もっと大きい恩恵を受けることが出来る」とNicoが話す。「サンフランシスコよりも確実に良い。ニューヨークではほとんど遊びに行くことがないから、人と会うこともほとんどない。だけどいつもそうしてるから自分と似た音楽を好きな人とだけ会うことが出来るんだ。」

ReillyとNicoはレーベルを通じて非常に多くのことを学んでいるようだ。プレス工場や管理登録問題によって彼らは何度か経済的な問題に直面してきた。約1年、そうした問題を潜り抜け、状況はようやく落ち着いて来ているが、彼らはもっと積極的にリサーチをしなかったことを後悔している。「俺らはいくつかミスをしている」とNicoが語る。「大きなミスではないけど、Karate Kidsのミヤギ先生みたいにどうすれば良いのか教えてくれる人が居れば、2、3000ドルは得をしていたと思う。もしレーベルを始めようとしている人が居たら言いたいね。しっかりとリサーチをするようにって。」

ニューヨークを拠点としワールドクラスにテクノを展開するアーティストの最前線にNicoとReillyは居る。SynewaveやSonic Grooveは良く知られた例だが、過去20年以上に渡り、それ以外の多くのレーベルも活動を続けている。この街の歴史についてしっかりと理解を深め、ReillyとNicoはアメリカとヨーロッパのテクノシーンの間にあるギャップを埋める架け橋になろうと心に決めている。「俺達はただ、新鮮なアイデアや音楽と一緒にこの街に来ただけだ」Nicoが最後に締めくくる。「俺達の土台はここにある。だけど俺達はそれを最新のものにしていきたかったんだ。」

Fifth Wall

Fifth WallのファウンダーであるDivvorceとHound Scalesによる、新旧のトラックを使用した2つのミックス。彼ら自身による未発表曲に加え、MetristやCloudsの新曲、そしてPlastikmanやAdam Fによるクラシックの数々を織り交ぜている。

Download: RA Label of the Month 1312 Mix: Fifth Wall
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Filesize: 183 MB
Length: 01:16:24
Tracklist
Part I: Divvorce

Charanjit Singh - Raga Bhairav
JoeFarr - Take Two of These
Tripeo - Untitled #4
Alis - Untitled
Plastikman - Plasticine
Metrist - Untitled
Clouds - Cybergrind Your Mind
Matrixxman - Credentials (Myler Remix)
Divvorce - Roquentin's Release
Adam F - Circles

Part II: Hound Scales

Lewi White and Jammer - The Coffin
Tori Amos/Bjork/PJ Harvey/Massive Attack - Dissolved by the Water of all the Years
Orchestral Maneuvers in the Dark - The New Stone Age
Prurient - You Show Great Spirit
Low Jack - Dont you Know
Dualit - Rant
Metrist - Dragen Tract
Darqwan - Said the Spider (Surgeon Remix)
Hound Scales - Howard Hughesian
Myler - Buttersoft Leather
Hound Scales - Throated
Collapsing New Buildings - Styropo
The Jacka - Wit the Shit