コンピレーション・トップ10

優れたコンピレーションとは何か。10年前のトップテンを見てみると、細部へのこだわり、クオリティの高さ、そしてレーベル、アーティスト、ジャンルを輝かせるために慎重に選ばれたトラックリストなどの視点から選出されたことが分かるが、2013年はここ数年の主流とも言えた、このような指標に沿ったコンピレーションの数が減り、「今」のサウンドを示すような作品が増えた。

10. Various - Night Slugs All Stars Vol 2 [Night Slugs]

Night Slugsは今年で3周年を迎えたが、形を変えながらも影響力のあるクラブミュージックの本質を握り続けている。今作を前作と比較してみれば、その違いは明らかで、Helix、Girl Unit、Lil Silvaなどによるユニークなトラックは以前よりもざらついて鋭利な印象を与えるが、Night Slugは多種多様なスタイルを自分たちなりに消化したピュアな作品を発表し続けている。

09. Various - MASSE [Osgut Ton]

Berghainを訪れたことがある人ならば、あの場所は「ナイトクラブ」という言葉では片付けることができないということは理解できるはずだ。むしろベルリン市内の他の真面目なアート施設のような、「文化施設」とでも呼べば良いのかも知れない。この作品はBerghainのレギュラーたちが手掛けたバレエ用スコアになるが、チャイコフスキーの手掛けたそれとは全く異なり、そのエッジの効いたサウンドは快楽性だけが取り沙汰されることも多いOstgut Tonのアヴァンギャルドな側面を浮かび上がらせている。

08. Drexciya - Journey Of The Deep Sea Dweller IV [Clone Classic Cuts]

Drexciyaのコンピレーションはリリースされただけで及第点を得ることになるが、『Journey Of The Deep Sea Dweller』の最終作となった今作で、Cloneは全力を出し切ったようだ。今作は“Black Sea”や“Mantaray”など最もヘヴィーなトラックが収録されていると同時に未発表曲も5曲収録されているため、Drexciyaファンには堪らないだろう。一筋縄ではいかない連中を相手にCloneは見事な仕事をやってのけた。

07. Various - Eglo Records Vol 1 [Eglo]

Egloのアーティストはバラエティに富んでいるが、今年はレーベル4周年を記念して2枚組が発表された。“Vacuum Boogie”、“Soul Glo”、“Roland’s Jam”などヒットトラックが収録されている他、Floating Pointsの“Wires”など未発表のトラックも収録されている。尚、同封されているフォトブックもEgloの音楽と同様、暖かい雰囲気を醸し出している。

06. Various - This Is How We Roll [Keysound Recordings]

『This Is How We Roll』の1曲目“New Wave”はWen、Visionist、Beneathによる作品だが、このレーベルの姿勢を如実に語っている。このコンピレーションはこのレーベルがシフトチェンジを行っている最中にリリースされたもので、UKで最も革新的で面白いとされるアーティストたちが生み出す、グライム、ダブステップ、ハウスをベースにヘヴィーで鋭利でありつつもグルーヴが保たれたパーカッシヴサウンドが収録されている。これが未来を指し示しているのであれば、UKの未来は明るいと言えるだろう。

05. Various - Music for Shut-Ins [L.I.E.S.]

『Music For Shut-Ins』はL.I.E.Sによる年末恒例のコンピレーションの2作目だ（1作目は昨年の『American Noise』）。『Music For Shut-Ins』にはRon Morelliが率いるこのレーベルの躍進を支えたトラック群が2枚組として収録されており、Terekkeの“Ameze”やKupferの“Feelin’”など過去のL.I.E.Sのリリース群に匹敵するクオリティのトラックから、L.I.E.Sの怒涛のリリーススケジュールの中で買い逃してしまったようなあまり知られていないようなトラックまでが収録されている。

04. Mr. G - Retrospective [Rekids]

Collin McBeanことMr. Gの作品が世に認知され始めたのは、他のアーティストが909を手放しつつある年齢とも言える30代後半の時だった。それ以降Mr. Gはその遅咲きのキャリアを余裕でカバーできる大量のEPをリリースし続けている。『Retrospective』は今世紀における最もユニークなダンスミュージックのひとつである彼の作品群に対する優良なガイドと言えるもので、フロアを沸かせたいと言う人のためのクラシックなトラックが21曲収録されている。

03. Various - Think + Change [NonPlus+]

2013年はNonPlusにとっては静かな1年となったが、『Think + change』はダンスミュージックシーンに大きな衝撃を与えた。Kassem MosseやPearson Soundなどの新曲はBoddikaが依然として前衛的な姿勢を保っていることを示し、またInsta:mentalの強烈なトラックはこのレーベルのルーツであるドラムンベースに対する敬意を示している。尚、もはや伝説扱いのJoy Orbisonのダブプレート“Big Room Tech House DJ Tool - TIP!”が収録されていることだけでも、ここに掲載される価値があると言えるだろう。

02. Livity Sound - Livity Sound [Livity Sound]

Livity Soundの魅力のひとつはその瞑想的なサウンドにある。彼らのトラックは慄くほどの強烈さが封じ込められているが、同時に誰にとっても魅力的な作品に仕上がっている。“More Games”のようなトラックは音数が最小限にまとめられながらも、トラックのスケール感は非常に大きいため、誰もがそのミニマリズムの魅力に気づくことができるはずだが、このミニマリズムは決して「躊躇」から生まれているものではなく、Peverelist、Kowton、Asusuの3人は今年を代表するパワフルなトラックに関わっており、積極的な姿勢を保っている。

01. DJ Sprinkles - Queerifications & Ruins - Collected Remixes By DJ Sprinkles [Mule Musiq]

リミックスはエレクトロニック・ミュージックの世界においてアートフォームとしては最も位置づけの低いものとして考えられる可能性が高い。当然中には優れた作品もあるが、全体として考えれば、リミックスはアートの追求性という意味ではオリジナルよりもレンジが狭い。またリミックスにはビッグネームをリミキサーに起用して自分たちの名前を売るというシニカルな側面が含まれる時も多々ある。

その中で例外と言えるのが、この『Queerifications & Ruins – Collected Remixes By DJ Sprinkles』に収録された14曲だ。Terre ThaemlitzことDJ Sprinklesの非凡な才能によるオリジナルにやや食傷気味だったかもしれない人たちに対し、彼はここ数年、最も情熱的でまた最も異端なリミックスの提供に注力してきた。その作品群はDJツールである一方、同時にクラブミュージックの枠を飛び出た深みへと突き進んでいる。“Lost Area (Sprinkles’ Lost Dancefloor”の苦悩やHardrock Strikerの“Motorik”の静かなドラマ性、またはOh, Yokoの “Seashore (Sprinkles’ Ambient Ballroom)の傑出したメランコリーまでThaemlitzのクラブミュージックに対する取り組みは、彼に対する評価にそのままつながっており、優れたリミックス集という意味ではこれに勝るものはないだろう。

オンラインミックス・トップ10

オンラインミックスは、DJにとって自由度が高い。何しろ、ロイヤリティやライセンス料の心配をすることなく選曲できるからだ。今年のトップ10には、様々な形でオンラインミックスというフォーマットの可能性を提示しているものを、ネットという広大な宇宙の無数のポッドキャストやミックスから厳選。ライブ録音から、独特なジャズ・ミックスなど、オフィシャルミックスとして出しても可笑しくない素晴らしい選曲のミックスを集めてみた。しかし今年のナンバーワンだけはちょっと異色だ。１人のアーティストの作品をショーケースすることが目的だからだ。

10. DJ Koze - FADER Mix

クラブミュージックを求めてDJ KozeのFADER mixを再生した人は、意外と多彩な内容に驚いたことだろう。Typesun、Kendrick Lamar、Madlibといったアーティストから、Moodymannなどへと流れ、後半は魅惑的なハウスへと展開している。M.OnoやTrinidadian Deep、Isoleeらの曲が心地よい暖かさを作り出しており、何回でも聴きたくなるミックスになっている。

09. Pepe Bradock - Nr. 60 Roof.fm

Pepe Bradockが手がけたRoof.fmのミックスは、針を溝に落とした瞬間から見事なまでにスムーズな音世界が広がり、最後までその空気感をキープしている。このフランス人は90分間に渡り、スモーキーなジャズから官能的なソウルまでを繋ぎ、John Coltrane、Sun-Ra、Teddy Pengerdrassなどを繊細にブレンドしていく。同ミックスはBradock本人による「ルピック通り、5階、南向き」や、「私の少年時代」、「エロティック・シティ」といった短文のコメント付きだ。

08. Floating Points, Red Greg and Jeremy Underground Paris - You're A Melody #1

Floating Points、Red Greg、Jeremy Underground Parisらが、ある木曜日の夜にPlastic Peopleで録音したこのライブミックスは、一風変わっている。4時間に及ぶミックスは、ピッチコントロールがなく、一筋縄ではいかないEMT社製のターンテーブルで作られており、クロスフェーダー頼りな繋ぎとなっている。だがそれが、3人が紡ぐ珠玉のファンク、ディスコ、ソウルの良さを半減するようなことは決して無く、聴けば、曲が変わるたびに客が歓声をあげた理由も解るだろう。

07. DJ Sotofett & Ron Morelli - Trushmix 39

Trushmixは、Sex Tags Maniaに何らかの形で関連しているアーティスト達の楽曲の中から、興味深いものをセレクトしミックスするシリーズだ。今年もいくつもの素晴らしい内容のTrushmixが配信されたが、中でもSex Tagsの主宰の１人、DJ Sotofettと、L.I.E.S.のRon Morelliによる2時間半に及ぶミックスがハイライトだ。2人は、ダンスミュージックオタクがヨダレをたらして眺めていそうな良質なハウスレコードを、それぞれ前半と後半に別れてスピン。Morelliのセットはたいていダークで荒々しいため、めずらしく彼がパーティーチューンを回しているのを聴くのは新鮮だった。

06. Prince Of Denmark - Smoke Machine Podcast 090

もしあなたが新入荷のページを常に更新しているようなテクノ・ファンなら、あなたにとっての今年のベストアーティストはPrince Of Denmarkだったかもしれない。今年彼がリリースしたダークで極悪なサウンドが詰まった宝箱のような作品はあっという間に売り切れてしまった。この覆面プロデューサーが台湾のSmoke Machineのために手がけたポッドキャストは、冷たいメロディとホットなビートを驚くほど素晴らしく繋げており、彼が現在のテクノ・シーンの中でも異彩を放つ人物であることを、ファンにも、一般リスナーにも、改めて証明している。

05. Midland - Panorama Bar [Sub:stance - 15.02.14]

Panorama Barで初めてDJをやるという事は、『The Never Ending Story』の2つのスフィンクスの間を通るシーンに似ている―選ばれし者しか、無傷で通り抜けることはできない（クラブに客として入るのも、こういった感覚があるが）。であるがゆえ、Midlandのようにこのクラブで初DJをし、ほぼ完璧なDJセットを3時間こなし、フロアを完全に支配するのはさぞかし気持ちの良いことだっただろう。まるで狙っていたかのように、グッドタイミングで陽が昇ってきたのも悪くなかった。

04. Donato Dozzy - E.P. 200

Electronique.itは、長年イタリアン・ハウスをサポートしてきた優良サイトだ。そして同サイトのポッドキャストの記念すべき200回目を担当するのに、イタリアン・テクノ大使のDonato Dozzyほど相応しい人物は居るだろうか？67分間に及ぶミックスを通して、彼はブレイクビーツや、エレクトロ、テクノを横断し、普段のDJプレイと変わらぬ刺激的なテクスチャーを作り上げている。これは、作業用BGMにはもったいない―じっくりと聴いて、音に埋もれて楽しむべき音楽だ。

03. Tama Sumo - FACT Mix 403

あなたが知っているであろう曲 (The Moleの"Lockdown Party (Sprinkles' Crossfaderama)")から、あなたが知らないであろう曲（Bosq Of Whiskey Baronsは勉強不足だった)、そして曲が終わってしまう前にネットで曲を探し始めるであろう曲(ミックスの締め、Dego & 2000 Black Family's "Find A Way"など)まで入った、Fact Mix 403の23曲はどれもキラーチューンだ。多くのDJが矢継ぎ早に曲をミックスしてしまう中、Tama Sumoのような慎重で丁寧なミックスを聴くと、もっと他のDJも1曲1曲じっくりと時間をかけて欲しいと思ってしまう。

02. Ben UFO - Essential Mix

「私のミックスの中でもかなりダークな内容だが、陽が射す瞬間もあるんだ」。Ben UFOは尊敬せずにはいられない。彼はクラブで中々聴けないような、かなり奇妙な曲をかける―「ひねりの効いた、ブロークンなハウスミュージック」と、彼は説明する―人物であり、このEssential Mixで彼はさらに異質な世界を繰り広げている。彼ほど完璧なミックスをする人でなければ、成立していなかったであろう。

01. Galcher Lustwerk - Blowing Up the Workshop - 100% Galcher

ニューカマーが自身の音源のみのミックスを公開するのは、なかなか斬新だ—特に、ハウス／テクノの世界では—だからこそ、『100% Galcher』は2013年のベスト・サプライズだったと言える。Blowing Up The Workshopシリーズの一環として公開されたこのミックスは、White Material所属の謎の人物、Galcher Lustwerkの世界への入り口となっている（今年リリースされた彼のデビューEPも中々良い内容だ）。Lustwerkは自身のミックスを、「2012年のトラックやステムをコンパイルしたプロモミックスだ」とだけ説明している。1時間に及ぶこのミックスには朝の出勤時、午後の散歩、家で友達とくつろぐ時間などに最適なサウンドが詰まっている。隙間のあるハウスビーツが切れ間無く進んで行き、Lustwerkの簡潔なスポークンワードが優しく乗っかる。これらの曲が一刻も早くアナログでリリースされることを切実に願う。

オフィシャルミックス・トップ10

ライセンスされた公式ミックスCDというフォーマットは、もう何年も前に死の宣告を受けているが、それでも毎年何枚か良作がリリースされる。2013年のトップ10はハイクオリティな商業ミックスの灯火を何年も燃やし続けているいくつかの重要シリーズが大部分を占める。中でもfabricシリーズは4作ランクインしていることが特筆すべき点だ。他にも、信頼の置ける人気シリーズのDJ-KicksやRinseが良作を出した以外に、今年は意外な所からも良いミックスが出ており、未だ人気が根強いこのフォーマットに新鮮さやバラエティが添えられた年になった。

10. DJ EZ - FabricLive 71 [Fabric Records]

DJ EZはここ10年ほど、だいたい同じ曲しか回しておらず、fabricのミックスに収録された曲も例外ではない。しかし、RAのレビューを担当したStephen Titmusは、それこそがこのミックスの良さなのだと評した。「最も偉大なるガラージDJ」という非公式な異名を持つ彼は、このミックスでいつものスタンスを変えることなく、Disclosureのようなニューカマーの楽曲と過去の名作を織り混ぜ、全てを伝説の電光石火ミキシングで繋いだ。

09. Svreca - For Your Eyes Only [Semantica Records]

『For Your Eyes Only』が最初に発表された時、一番話題になった点はたったの50枚というギャグのような生産枚数であった。その後、追加生産されたが、ミックスそのものの内容も素晴らしいものであった。James Ruskin、Yves De Mey、Skirtといったアーティストの曲が2枚のディスクに渡って収められており、熟練した職人の技巧で丁寧に磨きあげられていた。

08. Kr!z - Token Introspective [Token]

Tokenの過去リリースカタログには、テクノの名作が多くひしめき合っている。そしてレーベルの主宰者K!rzは、Token作品のショーケースとなるミックスを制作するという羨ましい役割を任せられた。こうして出来上がった『Token Introspective』は、Tokenの過去作品を横一直線に横断しており、レーベルの幅広い音楽性を提示している。無駄なことをしない彼のシンプルなミキシングスタイルで、１つ１つの曲がしっかりと味わえる内容になっている。

07. Kode9 - Rinse 22 [Rinse Recordings]

彼のDJプレイと同様に、Kode9のRinse CDは繋ぎにそれほど重点が置かれていなく、とてもクイックでラフで、海賊ラジオを思い出すミックススタイルだが、選曲と、意外な曲の組み合わせが何より魅力的だ。BurialからTheo Parrishへと繋いだかと思ったら、13曲連続でフットワーク、など。『Rinse 22』のトラックリストを最初に見た時にあっけにとられたが、実際に聴いてみて更にあっけにとられる内容だ。

06. Cassy - fabric 71 [Fabric Records]

Cassyのサウンドは、活動していく中で変化している。しかし『Fabric 71』のようなミックスで解る通り、彼女のスキルに疑う余地は無い。彼女はミニマリズムで知られるが、このミックスは肉付きの良いハウスやテクノを彼女らしい巧みな芸で豊富に聴かせている。聴いた事のある曲が多いかもしれないが、他のDJがかけても決して同じ仕上がりにはならないだろう。

05. Theo Parrish - Black Jazz Signature [Snow Dog Records]

Black Jazz Recordsは実験的な精神とフュージョンのスピリットでカルト的人気を誇るレーベルだ。そして、大胆かつ予測不能のTheo Parrishは、デトロイト・ハウスの変わり者として同じくカルト的人気を集めている。この2つの要素の間に自然と産まれるシナジーと、このレーベルの素晴らしいレコードたちが合わされば、『Black Jazz Signature』が今年のミックス作品の中でもひと際異彩を放ったサプライズ作だった理由が解るだろう。

04. Sandwell District - fabric 69 [Fabric Records]

Sandwell Districtのfabricミックスは、ここ10年ほどのテクノ・シーンの流れを作って来たこの重要ユニットによる最後のリリースとなった（そしておそらくこれが、犬猿の仲のRegisとFunctionが音楽で共同制作する最後であっただろう）。幾重にもレイヤーされ、細部まで拘りぬかれた同ミックスは、レーベルを通して彼らが今まで広めて来た音楽を振り返り、改めてお別れを告げている。Functionは同作についてこう言い表した。「Sandwell Districtが築いた一時代を要約して、終止符を打つ」

03. Ben UFO - FabricLive 67 [Fabric Records]

奇異なレコードを素早く繋げて行くミックス―Fabriclive.67を簡潔に表すとこうなる。しかし、それだけではこの作品の魅力が何も伝わらない。このミックスは、Ben UFOがRinseのミックスを手がけてからの2年間でどのように音楽の好みが変わったのか、そしてどのようにDJスタイルを磨いたのかを物語っている。大胆なミックスも見所だが、トラックリストをそのまま2013年のベスト・オブ・アンダーグラウンド・ハウスのリストとして発表してもおかしくないラインナップだ。

02. DJ Sprinkles - Where Dancefloors Stand Still [Mule Musiq]

失恋や世の中の不公平といったテーマにフォーカスすることが多いTerre Thaemlitzだが、グッドヴァイブスな音楽もお手の物だ。そしてそれは、Mule Musiqから出したほぼ非の打ち所の無い完成度のミックスCD、『Where Dancefloors Stand Still』においても言えることだ。14曲の繊細なディープハウス・トラックが、ソフトなフィルターと夢見心地なエコーフェクトで繋ぎ合わさっているこのミックスは、感情を癒すことがハウスミュージックの真の目的だということを思い出させてくれる。

01. John Talabot - DJ-Kicks [!K7]

去年リリースしたデビューアルバム、『fIN』には陽気な曲、官能的な曲、神経質な曲など幅広く収録されており、バルセロナ拠点のJohn Talabotの音楽がどれほど感情に訴えかけるかを明らかにした。彼の『DJ-Kicks』においては、こういった感情を他のアーティストの楽曲に見出し、更に複雑な心情をミックスで描き出している。

このミックスで、Talabotは特種な精神状態を作り出し―暖かさと不気味さ、親近感とパラノイヤの共存―バレアリックなビートから健康的なハウスへと、器用に繋げて行った。Young MarcoのリミックスからHarmonious Theloniousの曲へと移り変わる間、Madteoの"We Doubt (You Can Make It)"が浮遊し、テンポが徐々に上がって行く。ビートに合わせてヴォーカルが揺れている中、これは何か意味があるのだろうかと疑問が頭に浮かぶ。しかしTalabotはちゃんと答えを用意している。彼のプロデュース力は多才な彼の才能の１つでしかないんだということを明白にしながら、彼は今年の最もスムーズなミックスを心地よく展開していった。