エレクトロニックミュージックがデジタルの世界に足を踏み入れてから、多くの犠牲者が生まれた。レコードのカバーデザインもその一つだと思う。かつてシルクスクリーンカバーもレーベルの予算のひとつだったのが、今ではPotoshopを使って20分で完成させたデザインが、アルバムのカバーとしてデジタルリリースで即販売されてしまう。Under The Coversは、こんな時代でも未だ職人魂を忘れない、そんな人に焦点を当てた特集記事だ。

どこにでもあるようなアートスクールを卒業しながらも、多くの作品を次々と生み出すコンテンポラリーアーティストとして活躍中のJeroen Erosie。彼の経歴はとてもユニークなものだ。グラフィティーの世界にどっぷりと浸かったあと、テキスト、ステッカーそして伝統的とも言える壁画作品まで手掛けた、このオランダ人のパレットのサイズは大きい。近年Erosieは、彼の友人であり、DJそしてプロデューサーでもあるMartynが舵を取る3024の裏に潜むデザイナーとしても活躍している。

明るい色と巧みにデザインされた文字の裏に潜む大切な何かを、反動的に提唱するものが自分の作品だと彼は説明する。彼の作品の多くには、政治的又は社会的なメッセージが含まれ、デザイン自体はミニマルなものから優美で壮大なものまでと多岐に渡る。クライアントの期待に沿う仕事をするフリーランス・イラストレーターとしての彼の作品は、彼の普段言えない事のはけ口としての役割も果たしているようだ。彼との会話と通してRAのMatt Unicombは、「アートワークは、作品を見る人について、そしてどのように見られるかを念頭に作られるべきだ」という彼のポリシーが只の理想像ではない事を感じたようだ。彼の作成した今月末にサンパウロで開催されるRA Xのパーティーのポスターには、社会的メッセージは含まれていないが、彼の違った側面での才能が見受けられる。ただのストリートアーティスト、いや、彼はそんなもんじゃない。

僕がグラフィティーを始めたのが1992年か1993年くらいで、音楽とアートがリンクされ始めた時期だった。始めるずっと前からグラフィティーに夢中で、観光客みたいに色々な箇所を見て巡っていたよ。1986, 87年頃にグラフィティーが注目され始めて、街中に溢れていたんだ。ガキだった僕にとって、グラフティーが持つ様々な要素は魅力的なものだった。外に描かれている事、怒っているようなキャラクター、色とりどりな形と文字、そしてグラフィティーが法に触れてしまう存在といったコンビネーションはとても印象的なものだったんだ。グラフィティーと一見似ていると思われるイメージやアイコンも作ってみると、実は全く違う創作方法で出来ていることに気づいたんだ。それを感じたことで可能性が広がって、ステッカーやポスターもその後作り始めるようになった。

自分の事はストリートアーティストとはみなしてはいなくて、むしろビジュアルアーティストだと思っているよ。僕の名前を見れば、ストリートアートとの関わりが深いことも分かると思うけど、ストリートだけが僕の作品から感じられる事じゃないんだ。ストリートという言葉に意識が行かないようにはしているよ。そういうシーンがある事も否定できないし、ストリートが僕の作品の肥やしになっているのは間違いないけど。問題なのは、“ストリートアート”という言葉が出来るずっと前から、僕はストリートアーティストだったということだ。自分の作品をストリートアートなんていう風に呼んだこともないけどね。可笑しいのは、こういった事をやっていた人が居て、今ではストリートアートとして存在していることかな。最近ではストリートアートを始める人がいてっていう逆転の話になっているんだ。誰もが簡単に出来ることだし、その事が、行為よりも重要なものになっているよね。名前がついていない事こそ、もっと個人的な思い入れとか、リアルでパワフルな理由があったりするものだね。

ビジュアルデザインとテキストデザインは確かに別物だよ。でも、矛盾して聞こえるかもしれないけど、テキストもビジュアルの一部なんだよね。文字をタイピングする、するとそれは、もうイメージなんだ。そういう意味では、もっとコンセプトのあるテキストがベースになったものと、精巧でとても社交性に富んでいるドローイングには繋がりがあると思うんだ。テキストをベースにした作品は、より保守的で、人間同士のコミュニケーションともリンク付けされている。コンセプトを基に作業を行うんだ。コンセプトについて考え、話し、説明していく中で生まれるものだよ。

自転車を描くグラフィティーをし始めたのは、2003, 4年で、それは1, 2年間くらいしかやっていなかった。周りからの反響は凄かったんだけど、徐々にやらなくなってしまったんだ。人気になり始めていたし、これをあと数年やり続けるか、新しい何かをやるかの２択で迷っていて、結局後者を選んだってわけ。最近でも、「自転車のグラフィティーをやっていたEroise」っていう事で僕の名前を聞いたりもするよ。他にも色々やっているのになぁ。

自転車の作品は、ドローイングとタギングの２つの方法で描いたんだ。タギングでやれば、とても早く、違法ではあるけれど、一つのラインで仕上げることが出来る、グラフィティーの中でも一番ピュアなやり方だ。自転車のプロジェクトは元々フラストレーションから始めたもので、僕の地元では自転車を繋げておくポールが政府の決定で全て撤去されたんだ。つまり自転車を決まった場所以外でしか駐輪出来なくなってしまったっていう事。通行人の邪魔になるからという理由でね。

3024 のアートワークは、試行錯誤の連続の末完成したものなんだ。一番始めの作品は、曲のタイトルをそのままビジュアル化したものだよ。 Velvet / Twenty Fourのカバーは、カバーに登場しているキャラクターが数を数えているシーンなんだ。コミックの中の1シーンをカットしたようなものだ。 Vancouverのリリースでも、カバーのデザインは漫画で、これはMartynがバンクーバー空港で体験した事を基に作られたんだよ。こういったアートワークは、Martyn自身の日常的なストーリーがベースになっていて、誰でも見て理解できるようなものではないんだ。

人の目を引くようなデザインを施すレーベルも結構あるよね。毎回リリースするレコードカバーのデザインは同じようでありながら番号がついていて、細かい箇所が異なっていたり。注目されたいからそういうデザインにしているんだと思うんだ。MartynのDJセットをひとつ聴いてみれば、それと似たような事を感じると思う。曲ごとにサウンドが序所に変わっていき、最後には色々な種類のサウンドがあることに気づくと思う。これは、色々なプロジェクトに参加して、一つの場所に留まらないっていう僕の仕事のやり方にも似ている点があると思うんだ。Martynと僕の仕事に対する価値観という意味では、とても似ている。音楽にはそこまで詳しくない僕と、ビジュアル面に詳しくないMartyn、けれど仕事に対するアプローチの仕方は同じなんだ。彼のレーベルが持つ姿勢もそれと一緒で、毎回全く違ったものが登場する。ロゴだけが変わらずに存在しているよね。

創作過程によって生まれた様々な光を混ぜ合わせたものがRA のサンパウロで開かれるRA X パーティーの為の、限定ポスターのベースになっているよ。状況に合わせて作品作りを行う事が好きなんだ。インクと筆を使って、3つのドローイングを完成させたんだ。大きな壁をキャンバスとして描くのと同じような作業だったよ。透けた紙でドローイングをして、２つ目のドローイングを、1つ目のものの上で行って、そして、またドローイングをする。3つ目でも同じ作業を施したんだ。それぞれの作品が反動しあっているわけだ。

元々シルクスクリーンでやろうとは思っていたんだ。レイヤーを色々と変えられるからね。テクニカルプロセスによって、作品の形が決まってしまうという点がとても好きなんだ。様々な色が重なりあうことで、思いがけない色や形が出て来るからね。僕のビジュアルと、テクニカルなものとのギブ＆テイクから出来上がる作品だ。

RA X

RAでは現在RA 10周年を記念して、世界で最も活気づいているクラブ10箇所を回るパーティーを開催予定です。毎回異なったヘッドライナーを選んでいますが、その一人はパフォーマンスするまで誰だかアナウンスをしません。

RAお気に入りのデザイナー10人によるポスターも75枚限定で販売致します。この芸術作品を持っているのは、地元の中であなただけという事があるかも？RAのevent listingにて購入できます。